地味なモノクロ映画だった。Netflixの新作で、配信がスタートしたところ。スペイン映画でノースターで監督も知らない人。このそっけないタイトル。アート映画かと思ったら、内容は吸血鬼の話みたい。なんとなく心惹かれて見始めたけど、延々とナレーションが続いてなかなかストーリーに入り込めない。おぞましいホラーではなく、静かな映画。
だが、本題に入るとこれが実に面白いのだ。これは思いがけない拾い物だった。250年くらい生きた吸血鬼の老人が、もう死にたいと思っていた。彼はフランス革命の時、マリーアントワネットの首を盗んだ後、各地を転々として、チリで独裁者になった。好き放題して、今は生きることに飽きた。
5人の子供たちは人間で、40代から50代くらいか。たぶん莫大な父の財産分与を待ち望んでいる。早く死んで欲しい。妻は執事と不倫している。でも執事は主人を尊敬している。主人公から噛まれ吸血鬼になってずっと彼に仕えている。正義に燃える修道女は吸血鬼の中にいる悪魔を追い出すためにやってきた。
こんな感じのなんだかコメディにでもなりそうな話が展開するのだが、それが淡々としたタッチで、アート映画風。ラストのまさかの展開までがさりげなく描かれる。
彼の母親登場からカラーになるエンディングまで。楽しい。
後で調べたら、監督はチリの名匠パブロ・ララインという人らしい。チリ近代史を下敷きにしたダークコメディとある。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、最優秀脚本賞を受賞した作品なのである。そりゃあ面白いはずだ。