エイチエムピーがウイング再演大博覧會フィナーレを飾る。今回この2本を笠井友仁は語りをベースにした作品として同時上演する。装置は最小限に止める。2作品共通のシンプルだけど美しい舞台美術。もちろん笠井さんの手によるものだ。細部まであらゆる点にこだわるのも笠井さんらしい。
まず『メイド・イン・ジャパン』を見る。ふたりの役者たち(高安美帆・岸本昌也)による語りとパーカッション(スティヴ エトウ)により構成するシンプルな作り。10人の男女が殺されたひとりの女についてあらゆる側面から語るのだが、まるでその実態は見えない。リーディングスタイルでふたりは横並びで立つ。
周囲にいた人たちがメイド喫茶で働いていた彼女の印象を語ることから始まって、彼女の実像に迫っていくのだが、そこにさまざまな不思議の国『ジャパン』のイメージが交錯する。初演も見ているが、今回はこんなにもシンプルな作りにも関わらず、いやそれゆえにより混迷した作品になった。よくわからない。だけどそのわからなさが暴走するのがとても面白い。あげくは何故か男は踊り出す。芝居が終わった後のラストではふたりが踊っている。
『アラビアの夜』を見るのは今回で4回目になる。笠井さんはここでも語りの演劇を極める。狭い空間に5人の役者たちがひしめき、マンションの地下から8階まで(建物自体は11階まである)の広い空間を描く。モノローグ劇である。役者は基本正面を向き、セリフとト書きが混在する。5人がそれぞれの場所で自分から話を推し進める。マンション内のいくつもの場所で5人が孤軍奮闘する。
艶笑譚である。眠る半裸の女、やって来た恋人、あるいは覗いていた向かいのマンションの男。水が出ない8階から11階。止まるエレベーター。管理人の奮闘。不思議なお話がアラビアの夜に繰り広げられる。そこにはまるで幸せな悪夢を見ているような魔法の時間が展開する。