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映画・演劇のレビュー

『ラスト・ソルジャー』

2010-12-08 21:19:27 | 映画
 ようやく見ることが叶った。ジャッキー・チェンの最新作だ。最近のジャッキーの新作はアメリカで作ったものと本国での、それとが交互に公開される。アメリカ映画の彼はつまらないが、中国映画(もう香港映画とは言えない)での本気モードの彼はとても頼もしい。残された時間(ジャッキーはもうすぐ60代である!)の中で、自分が本当にやりたいものしかやらない、という姿勢を貫いている。今回もそうだ。この作品に関してはなぜか悪評ばかりが横行するが、まるで気にせず、楽しみにして劇場に足を運んだ。構想20年、という宣伝はともかくとして、これは彼がずっとやりたかったことであろう。渾身の1作である。


 見た目は昔ながらの行き当たりばったりのストーリー展開だが、この軽さこそが今回の狙いである。これは最近のジャッキー映画には、久しくなかったノリだ。最近はこういう作り方はしなかった。『新宿インシデント』のようなシリアスの方向に傾いていたはずだ。今回も最初は『神話』のような時代劇大作だと思った。だが、最初は安直なドタバタのアクションで、それがラストで思いもかけない悲劇になる。このいきなりの展開に驚く。

 だが、彼がこの作品の中で本当にやりたかったのは、ここであろう。大きな歴史のうねりの中で小さな兵士が、生きのびていくために必死に戦う様は、こんなにもコミカルに処理されてあるにもかかわらず全く滑稽ではない。菜の花畑のシーンが胸に痛い。黄色の花が咲き乱れる中、戯れる。全編戦いばかりで、泥色の風景が続いたのに、ここで一瞬だけ鮮やかな色に変わる。はっとさせられる。梁に帰り五畝の土地を手に入れ、そこに何を植えようか、と夢想するシーンがいい。彼は多くは望まない。ただ五畝の土地があればいい。その慎ましさ。百姓として平和に生きたかったのに、戦争に刈りだされ、命からがら生き伸びて、今はただなんとかして、故郷に帰りたいと願うばかりだ。

 戦場で、ワン・リーホン演じる敵の将軍を捕虜にしたジャッキーが、祖国である梁の国を目指して旅する姿が描かれる。先々には様々な敵が待ち構えている。その網の目をくぐり抜けて無事帰りつくのか、というところが見所だろう。だが、安易な展開と単調な描写で、いささか退屈するのは確かだ。話はまるでないし、アクションばかりが続くし。だが、その先に、感動のラストが待っている。そこに向けてそれまでのすべてはある。

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