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映画・演劇のレビュー

『二十四の瞳』

2009-03-08 09:51:59 | 映画
 木下恵介監督、高嶺秀子主演の傑作である。僕が今更何を言うまでもない。映画史に残るこの映画の素晴らしさをここで繰り返してもしかたない。

 偶然に、見る機会があり少しだけ見た。分校時代を描く1年生の部分と、本校に移ってからの6年生のところのほんの少しまで、見た。松ちゃんのお母さんが入院することになるエピソードまでだ。ここからはつらい話ばかりが続く。

 僕がこの映画を初めて見たのは、中学生の頃だ。昔、壺井栄の小説が大好きだった。(生まれて初めて買った文庫本は『母のない子と、子のない母と』である。中1の時だ。なつかしい。)映画は幼い僕の心に沁みた。現実の生活よりも映画の中のほうが居心地がよかった。だから、僕はこの映画の小学生たちになりたかった。大石先生の生徒に憧れた。なんという子供だろうか。今なら笑える。

 あんなに幸せに見えた分校の日々を今もう一度見た時、必ずしも明るく無邪気なだけではなかったことに気付く。(まぁ、その後何度かこの映画は見ているから、初めて見た時のように感情移入した記憶のまま、今回も見たわけではないが)

 このなつかしい映画はとても幸せな記憶として心に残っているが、今こうして改めて見ると、楽しいエピソードなんてほとんどない。悲しくて辛いことばかりだ。だけど、そんな中で、ほんの少し心が和むシーン、それが深く心に残っていた、ということだろう。慎ましやかで控えめな日本人がここにはいる。自己主張せず、すべてを受け入れて、泣く。こんなにもめそめそした映画なのに、それがなぜか心に深く沁みる。

 時間の都合で後半が見れなかったが、もし、最後まで見てたなら、きっと疲れただろう。昔何度か見たこの映画はすばらしいものだった。今見ても色褪せることはないだろう。だけれども、今、最後まで見なくてよかった。それは、この映画が思い出の中でのほうがずっと輝いているからだ。そのことを自分が一番良く知っている。だから、もう見ない。

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