初日の午後の回で見てきた。大阪ステーションシティシネマは当然一番大きな劇場他で拡大上映しているから余裕で見ることが出来た。『アバター』並みの3時間の大作だ。(ということは、少し不安)東映70周年記念大作で、織田信長を主人公にした時代劇。今の時代に時代劇、というのも東映らしくていい。大作時代劇はリスクばかりが高くて旨味はない。それでも東映の威信をかけて作るのだから、ヒットが難しくてもやはり時代劇だろう。だが、そこに東映生え抜きの監督を起用するのではなく他社作品の大ヒット作『るろうの剣心』の大友啓史監督を持ってきて、木村拓哉主演。さらには綾瀬はるかとのダブル主演で夫婦の愛憎劇として仕立てるという奇策だ。どんな映画ができるのか、興味津々。さらには古沢良太の脚本。東映カラーは希薄。そこまでする。でも、思うようには大ヒットとはならないことだろう。『ワンピース』や『スラムダンク』のようにはいくまい。だがこういう挑戦を邦画メジャーの東映がする。頼もしい。
スタートは楽しい。なんと16歳の信長から始まる。10代の悪ガキを今のキムタクが演じる。なのに、そこに違和感がないというのは凄いというしかない。ふつうならあの年齢の人が演じたならイタいはずなのに、彼は見事。嘘くさくない。そこに綾瀬の濃姫が輿入れしてくる。この冒頭のエピソードが掴みとしてうまいし楽しい。一気に作品世界に引き込む。さらには初夜のシーン。あのドタバタが素晴らしい。前半戦は好調。
この映画はオールスターキャスト(だけど)ではなく、なんと基本二人芝居なのだ。夫婦の確執を描くホームドラマなのである。なんたること。だからほとんどのシーンはこのふたりの対決である。対決とあえて書く。信長と濃姫の夫婦愛を描く感動のドラマを期待したら驚くはず。いつまでたっても派手な合戦シーンは出てこない。前半のクライマックスは桶狭間の戦いだ。でも今川方は出ない。それ以前のふたりでどうしたら勝てるのかの作戦会議しかない。そしてそこが面白い。だからここは会話劇。地味な会議が、というか、夫婦のおしゃべりが桶狭間の勝利につながるのだが、何度も書くが合戦は出てこない。
ということで、これは予算をケチった地味な低予算映画なのか、と言われそうだがさにあらず。すさまじい予算を無駄に投入した超大作なのだ。ムダと書いたが嘘だ。この豪華さは異常なレベル。安土城をはじめとするセットの壮大さ、いたずらなくらいのモブシーン。合戦はないのに、すごい人数の武者たちが移動するシーンや、戦いの後の光景がちゃんと描かれるのだから、いろんな意味で確信犯だ。あえて見せないことは最後の本能寺のシーンまで貫かれる。そうなのだ、ラストの本能寺の変のシーンのあきれるほどの長さもまた異常だ。そこで信長は夢を見る。その夢の描写も長い。夢の中でふたりは船に乗り世界を見る。狭い日本を離れて二人だけで世界へと旅立つのだ。まるでそれは本能寺での死なんてなかったとでも言わんばかりの尺の長さだった。あれがやりたかったのだな、と思う。
これはある夫婦が結婚して、反発しあいながらもそれを乗り越えていく姿を描くホームドラマ。夫の夢の実現のためにけなげにそれを支える内助の功ではなく、自分の夢の実現のために気がつくと彼を利用していたズルい女、でもなく、なんだかよくわからないままにふたりの夢に邁進していた夫婦の話なのだ。子供もできず、だから最後まで二人だけの世界。ただ、お話の後半、京都に入り、全国制覇に向かうところで彼は疲れてしまう。自分のしたかったことはそんなことではないと気付く。そこから一気にモチベーションが落ちる。やがて妻は去り、ひとりになる。いつのまにか彼女の幸せを望んでいた自分に気づく。天下獲りではなく、妻との日々を望む織田信長なんて、そんなお話を今まで見たことがあったか。そして、そんな腑抜けになった信長を信長信者だった明智光秀は殺すことになる。ここは歴史のお勉強通りの展開。
きっと賛否両論の映画だろう。だけど、今の時代にありえなかった新しい信長像を提示できたはずだ。それを可能にしたのはこの「木村拓哉と綾瀬はるか」という2大スターの競演という大前提だ。そして後半のハイライトは京都でのお忍び町歩き。ほとんど『ローマの休日』のノリ。そこからあの貧民窟のシーンにつなげ、そこでの大乱闘を丁寧に見せるのは凄い。明らかに生じる貧富の差をさりげなく見せ、お話をただのきれいごとにはしない。さらにはあのラブシーンにつなぐ。
だが、映画はここまで。そのあと明らかにお話も映画自体も減速する。ストーリー展開上仕方ないが、ここからの終盤の展開は悲しい。しかもあの延々と続く本能寺のシーンだ。そこまではよくできているのに、ここに至っていささかバランスが悪いのが惜しい。息切れしたわけではないだろうが、もったいない。