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映画・演劇のレビュー

草野タキ『Q→A』

2016-08-17 20:43:29 | その他

5人の中3、少年少女。彼らの1年間を追う。5人の視点から描かれる5つの短編小説がそれぞれふたつずつセットになって、全部で10篇の短編連作で、1年のお話を成す。さらには、2つの作品はタイトル通りQ→Aという対応をする。さらに、さらに、それぞれの短編の内容ででも、質問に答えるエピソードが根幹をなす。いろんな意味で、なんだか、実にスタイリッシュなのだ。アンケートに答えることで、自分をみつめていく。QからAへ、進んでいくことで、それぞれの答えへとたどりつく。

 

自分のルックスへのコンプレックス。それが性格にも通じる。あるいは、受験を巡る心の葛藤。それぞれのお話として描かれる問題は彼や彼女だけのことではなく、誰にも通じる問題になる。でも、そこでは、彼らはそんな問題を自分だけのこととして悩み、苦しむ。

 

でも、それらは、みんなが抱える問題なのだ。そんなひとつひとつのエピソードを実に丹念に取り上げ、丁寧に、リアルに、描いていく。まるで、自分が中3の頃に戻ったような気持ちにさせられる。それは、とても嫌な気分だ。でも、あの頃の自分がいたから、今の自分がいる。感情的になることはない。感傷的にもならない。そんな甘酸っぱいものなんかじゃないからだ。誰もが、それぞれ、人には言えないような悩みを抱えている。受験生であっても、恋はするし。

 

彼らの問題のひとつひとつは、口にしてしまえば、「そんなことで、」と言われてしまいそうなものなのだが、今の彼らにとっては、それはとても重大事なのだ。(だから、人には言えない。)それによって、死にたいと思うくらいに。

 

そんなつまらないことで、悩むなよ、と大人には言われるはず。でも、14歳はそんなことにも真剣なのだ。偶然、自分を客観的にみつめるアンケートが彼らのもとに届く。それ自体はどうでもいいようなものなのだ。でも、それが、結果的に彼らにとっては、大切なものとなる。

 

QからAへ、簡単にたどりつけるわけではない。だが、5人は、この1年を通して、そこにたどりつく。そんな彼らは、なんだかとても立派なのだ。輝いている。

 


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