習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

奥田亜希子『左目に映る星』

2014-04-13 20:39:44 | その他
 すばる文芸賞を受賞する小説はいつも普通じゃない。本間洋平の『家族ゲーム』の時代から変わらない。この作品もご多分に漏れない異常さで、読みながらドキドキする。恋愛小説なのだが、彼女の考え方や感じ方が普通じゃない。表面的には普通に生きている。だが、そのこだわり方普通じゃない。11歳のときに好きだった少年の面影を26歳の今も追いかけている。あの頃の「吉住くん」を永遠に愛するから、誰とも恋愛は出来ない。もちろん、26歳になった吉住くんに再会しても彼女は何も思わない。彼は、彼女が好きだった「吉住くん」と同じではないからだ。

 乱視が入っていて左右の視力が極端に違うから、片方の目を閉じたなら世界は変わる。そんな共通項を持つ彼女と吉住くん。小学校の頃、図書館で一緒に過ごした記憶。

 あれからずっとほかの男の人は愛せない。体を重ねることは出来ても、心を重ねることは出来ない。そんな彼女がアイドルオタクの男と出会う。彼もまた乱視で左右の視力が極端に違う。だが、彼は彼女と同類ではない。それどころか、対極にある。考え方も感じ方も、まるで相容れない。こんなにも違うのに、そのことが、彼女にはなぜか心地よい。絶対にわかりあえない存在だ。だから、反対に一緒にいられる。

 このふたりの恋愛を描く。だが、ラブストーリーではない。彼らの感情が高まり恋に落ちるわけではない。どこまでも冷静で、これを恋とは言わない。だが、こんな恋物語がこの世界にあってもいいかもしれないと思わせる。普通じゃないことは悪いことではない。気を衒っているのではない。こういう特別を、淡々と描いただけなのだ。そのことがなぜだか、読んでいて心地よい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『クローズ EXPLODE』 | トップ | 『チャイルドコール 呼声』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。