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映画・演劇のレビュー

劇団大阪『遠くの戦争 ~日本のお母さんへ~』

2010-06-08 23:04:58 | 演劇
 リーディングスタイルを取ることで、このリアルな現実がより生々しく伝わることになった。素材と表現方法が見事に一致して伝えたかったことがストレートに届く。報道されることのない現実を事実の中から伝える。これは芝居というメディアで可能な事への挑戦だ。

 パレスチナ難民のことを僕たちは知らない。60年にわたる苦難の歴史は今もまだ現在進行形で続く。戦争は終わることなく続くのである。そんな中でたくさんの人たちの命が簡単に奪われていく。遠い日本にいて、平和に暮らす僕たちに向けてその事実を突きつけるだけではない。この作品は僕等を啓蒙することを目的にして作られたものではない。いま、この国で起きている様々な問題(おびただしい自殺者のこと、失業者の増加といった問題)と、パレスチナを重ねることから見えてくるこの世界の様々なあり方、それさえも問いかけてくることになるのだ。

 パレスチナで生きる少年アブドゥと、日本で彼の里親となるお母さん、という2人を芝居全体の核に据えて、彼らの手紙でのやり取りを起点にして、全体は構成されている。スライドを多用して写真や地図ををたくさん取り込み、具体的なイメージが湧くように作られる。作り手は事実を伝えるために最大限の努力を尽くす。(演出は斎藤誠さん)

 イスラエルによる軍事侵攻でたくさんの犠牲者が出たガザ地区。そこで生きる子供たち。彼らの支援をするとある日本のお母さんを起点にして、彼女の家族が抱える「現実の日本」の実情。それがいろんな意味で遠い彼方である「現実のパレスチナ」と鳴動する。いくつもの証言。事実のレポート。様々な声で構成されたドキュメンタリードラマは驚きの連続だ。知らないと言うことは怖ろしい。これは今もこの同じ地球においてリアルタイムで起きている真実なのだ。

 痛ましいことだと、人事のように語ることは出来ない。これはイスラエルとパレスチナだけの問題なんかではないことは明らかだ。だが、火の粉が自分たちのもとに降りかかってこないことには誰もそのことに目を向けない事も事実だろう。たかが、芝居である。されど、芝居に出来ることは大きい。このメッセージがやがて世界を動かすことになればいい。

 

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