向田邦子の新刊が盛んに出版される。その都度借りてきて読んでいる。彼女が亡くなられてからもう40年以上経つというのに、である。河出書房新社からこの本が出版されたのは2022年8月。命日に合わせたのだろう。24人の人たちが書いた文章を集めてまとめた。そのいくつかはもうすでに読んでいるものだ。だが、それを1冊にして続けて読んでいくと、改めて彼女の不在が心にしみてくる。どれだけ彼女が愛されたかも。
僕が初めて彼女の本を買ったのは、『冬の運動会』だ。大和書房から出た「向田邦子TV作品集」の3巻である。あれはとても好きだったドラマだ。まだ高校生ぐらいの時なので小遣いも乏しく、なのにそこから1300円ひねり出して買わずにはいられなかった。沢田研二が主演したドラマ『源氏物語』であの小説の意味を教えられた気がする。『寺内貫太郎一家』は苦手だったけど、子供のころ見た『だいこんの花』の頃から名前は知らないまま彼女の作品に触れてきていた。本格的に意識して見始めたのが『冬の運動会』だった。直木賞を受賞したとき、当然と思うと同時に、なんだか誇らしい気分になった。ずっと好きだった人がちゃんと正当に認められた気がした。20歳になったばかりの子供だったけど。小学生だったころからTVで彼女の作品を見てきたのだから、少し偉そうでもいいじゃないか、と。なのに、翌年8月彼女は突然亡くなる。
この数年河出書房新社から出ている向田邦子傑作選をその都度読んで、改めて凄い人だと再認識している。そこではエッセイを中心にして、TVドラマや小説も、少し収録される。それは彼女の仕事のほんの一端をセレクトしているだけ。ささやかな本。でも、そんなささやかさがいい。全集ではないのがいい。小説家としての仕事やTVドラマ作家としての仕事ではなく、その狭間に書かれたエッセイにしたのがいい。
そして、今回、これは彼女の死後に書かれた追悼文を中心にしたエッセイ集だ。ここでもすべてを網羅するのではなく、ほんの一端に触れる、という感じがいい。だいたい彼女の仕事を網羅することなんかできない話だ。増田れい子さんが書いている。「向田さんはいう。気が小さくてズボラな割にはこの20年の間、ラジオの台本2800本以上、TVドラマ千本、」と。ここにはエッセイや数少ない小説は含まれないし、その後の作品もカウントしない。
いつかもう一度、ちゃんと彼女の作品を読もうと思う。20代の頃とは違う感想を抱くだろう。