「造園設計士・高桑は大学の卒論で作庭師・溝延兵衛と、彼の代表作となったある庭を取り上げて以来、長年にわたり取り憑かれ続けていた。」と、解説に書いてあったからコピペしたが、これは高桑の話ではない。彼は導入としているだけで、実質はある華族の物語だ。
昭和初期、時代は戦争の時代へと突入していくが、同時に、やがて没落していくことになる華麗なる一族の最後をこの屋敷で仕えるひとりの女中の視点から描く。庭園から出てきた白骨死体の謎も絡めながら描かれるひとつの時代の記憶。
平成10年と昭和8年。さらにはラストで令和5年の今。ひとつの庭園作成を巡るある華族一家の物語とその後。1万6000坪の邸宅って、想像もつかない。調べたら東京ドーム1・3倍の敷地だって。ありえん。昔の華族の家は凄いわぁ。確か使用人が5000人(だった、ような)とか、わけがわからん。
そんなこんなの当時の華族の生活が微に入り細に入りで、これでもか、と丁寧に描かれ、驚きの連続。本題であるお話よりそんな背景の状況のほうがなんだか新鮮で困る。小説自体も(まさか、だか)お話よりそちらに重きを置くような雰囲気。こんな時代があったことを今もそのままの姿で残された立派な庭園に託して描いた作品(ではないけど)。