なんと靭公園が舞台になる小説だ。公園のすぐそばできた小さなサンドイッチ屋「ピクニックバスケット」。姉と妹のふたりで店の切り盛りをしている。そこにやってくるお客さんとのお話だ。常連の小野寺さんやここにパンをおろす川端さんというふたりをレギュラーにして5つのエピソードが綴られていく。
なんだかほのぼのして楽しい。こんな店があればいい。よくあるパターンなのだけど、おいしいものを食べて、楽しい毎日を過ごすという、ただそれだけのほんとに「ささやかな幸せ」を満喫させられる。特別なドラマはないけど、だから素敵なのだと思う。おいしいサンドイッチを作り、店頭に並べるとお客さんがそれを手に取り買ってくれる。食べた人が幸せになる。
姉である笹子と妹の蕗子、小野寺と川端という2組の男女が主人公なのだけど恋物語ではない。もしかしたら今後そこから恋が始まるかもしれないけど、それはこの小説のテーマではない。これはあくまでもなんでもない日常のスケッチなのだ。一応お話は用意してあるけど、それが大事なのではないことは明白だ。何にもない毎日のスケッチこそがこの小説には大事なのである。変わることのない毎日の繰り返し。そんな日々の中に幸せはある。