2人の女の出会いを描く。お互いにその存在すら知らず別れ別れになっていた姉と妹。1枚の絵が、ふたりをつなぐ。主人公は何不自由なく生きてきたお嬢さま。父親の会社が経営する私設美術館の学芸員であり、絵画コレクター。もうひとりは、孤児で、日本画の大家の養女である新進画家。
ある画廊で、たまたま見かけた1枚の絵、心惹かれて、それを購入する。そこからふたりは出会い、お互いの出自を知る。重くて暗くて息苦しい小説だ。3・11直後、東京から京都へと彼女は放射能汚染を回避するために避難してきた。妊娠初期の不安定な状態にある。絵を通してその作者に会い、彼女に惚れこんでしまう。まずはそれだけ、のはずだった。だがそれだけでも魂と魂の邂逅のような出会いだ。
夫と別れ、両親とも離れ、ひとりぼっちで誰も身寄りのない京都で、最初はホテル暮らしをしていた彼女が、やがていろんな人たちと出会い、生まれてくる赤ん坊と、妹との3人で新しいスタートを切るまでのお話。
「家族」の絆よりも「血」のつながりを本能的に選び取っていくことになる。両親は自分の本当の父と母ではないことを知り、親に引き合わされた夫とも、もちろん血縁ではない。彼は優しくて「いい人」だけど、心はつながらない。
3・11以降の混乱と不安の中、最初は不本意だったが、結果的に今までの自分を棄てて、本当の自分として生きていこうとする。大切にしていたモネの『水連』を勝手に売却され、自分のよりどころを失った後、それ以上に大切なものを見つける。妹の描いた『水連』の大作を手に入れた時から、彼女の本当の人生は始まる。
ひとりぼっちの私が、本当の生き方をみつけるまでの心のドラマが、地味だけど、確かなものとして描かれていく。
入口と出口に彼女から棄てられてしまう夫を配して、彼の目線から描かれる。彼と同じように男という性を持つ自分としては彼の悲惨な心境を、ついついおもんぱかってしまう。