今年の課題図書に選ばれた作品だ。中学の部だが、高校生も、むしろこちらの方を読んだほうがいい。とてもよくできたファンタジー。でも、ほんとうはこれをファンタジーとして括るのはつまらない。湯本香津実の『夏の庭』の続編で、(もちろん、嘘です。全く区別の作品なのだが、手触りが酷似しているのだ。)こちらはおじいちゃんが死んだ後のお話。
死んだおじいちゃんの遺品整理のため、おじいちゃんの家に滞在する6日間のお話。庭の蓮池。朝そこにたたずんでいると、死んだはずのおじいちゃんが、ふつうにやってくる。このさりげないシーンで泣きそうになる。まるで昨日の続きのように、あたりまえにやってくる。死者と生者の間にはなんの違いもない。昨日の次に今日が来て明日につながるように、日常は続く。もちろん、おじいちゃんはもういない。そこにいたのは、過去のおじいちゃんで、お話はそこから毎日どんどん遡行していく。やがて、おじいちゃんと彼女が出逢う時間まで。
毎朝、そこで今の彼女が、そのままで過去の時間に戻り、ほんの少しの時間をそこで過ごす。おじいちゃんがいる時間だ。しかも、どんどんおじいちゃんは若くなる。今と変わらないおじいちゃん。中年のおじいちゃん、青年のおじいちゃん、少年のおじいちゃんまで。中学生の彼女の年齢と変わらないおじいちゃんと出逢うまでのお話だ。そして、この池がどうして生まれたかを知ることになる。
いかにも、のファンタジー作品になるのは、少しがっかりだが、作品自体はよく出来ているし、悪くない。今の彼女が置かれているほんのちょっとさびしい気持ちが、この魔法の6日間を通して浄化されていく。彼女は、心の中に秘めていたわだかまりを棄てて、父親と向き合うことになる。