30周年を迎えた記念大作の後、今回は少し地味目な作品に挑むオリゴの最新作。いかにもの岩橋さんらしい芝居で、話は曖昧で何を描こうとしているのかが、なかなか見えてこない作品。だからイライラさせられた人も多いのではないか。
一応、「過疎化した田舎町、打ち捨てられた古民家カフェを舞台にして、町民たちの奮闘を描く」ということにはなっている。彼らはアイドルを招聘してイベントを行い町起こしを図り、移住者を呼び込もうとするのだが。と、いうパッケージングなのだが、それがわかりやすいドタバタコメディにはならない。もちろん深刻な話にもならない。ただダラダラ会話が続くばかり。
さらには、そこから「わたしってなんだろう」とか「人が二面性を持つこと」とか、(アフタートークでゲストの映画監督西尾孔志さんが指摘していた)が描かれていく。いや、そこまで深刻じゃないけど、確かにそんな一面もこの芝居にはある。とても的確な指摘で分かりやすい。
移住者と地元(ここで生まれ育った)の人たちとの確執もさらりと流す。あからさまなぶつかり合いはなく、穏やかに収まっていく。一応ハッピーエンドになる。だけど、実はすっきりしないし、わだかまりはある。
もとAV女優や男装カフェで働いていた女の過去が明るみに出る。市役所の男性は女装の趣味がある。描かれるのは、推し活をするボランティアの趣味から始まった企画を巡る騒動である。新しいコミュニティのあり方を描く、わけでもない。それぞれの事情や想いがさりげなく描かれる。岩橋さんはこの設定でなくても成り立つけど、この設定だから可能なお話を無理なく見せてくれる。静かな小佳作。