もう、こういうお涙頂戴「感動もの」の映画は食傷気味なのだけど、これは月川翔の久々の新作映画なので見ることにした。彼の前作はなんとNetflixドラマ『幽遊白書』。あれは期待したほどではなかったけど、彼は今(最近は)新しいタイプに挑戦している。新しい何かが生まれてくるはずだ。それを目撃したい。もちろん今回もその流れを組む。
月川監督はこの題材で、まず家族を前面に押し出した。感動の押し売りはもちろんしない。70年代をしっかり描くことから始めた。東京駅の雑踏を人の流れと反対に歩いて行く大泉洋が素晴らしい。彼が主人公である。こんなにもエキセントリックで変わり者の男を彼は嫌味なく演じることができる。あり得ない男だけど、家族はそんな彼を受け入れる。信じる。
後10年しか生きられないと宣告された娘を救うためにすべてを投げ出して戦うことにする。そんな彼を妻も娘たちも、古参の従業員たちも支える。私財を投げ出すだけでなく、多額の借金を抱えて。自分のすべての時間もつぎ込み誰もが成し得ない人工心臓を、一介の町工場のオヤジはたった10年で作る。作ろうとする。
これは闘病記ではなく、偉人伝でもない。10年の話でもない。70年代から始まって30年に及ぶ。人工心臓は無理だったが、諦めず、娘が亡くなった後も研究を重ね、娘の願いを叶える。彼の作ったバルーンカテーテルはたくさんの人の命を救うことになる。彼らは何があっても諦めない。それを美談として描くのではない。これはある家族の壮絶な戦いの記録であり、生き方の問題である。いいとかわるいとか、そんなことではない。