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映画・演劇のレビュー

態変『虎視眈々』

2012-10-13 08:09:19 | 演劇
 WFで態変を見るのは実に久しぶりのことではないか。しかも、本公演である。これは今の態変の基本姿勢がよく伝わってくる作品だ。この小空間で、本公演での態変の派手なパフォーマンスを見せる。さまざまな仕掛けがが凝らされていて、見ているだけで楽しい。

 だが、それだけではない。ひとつひとつのエピソードの積み重ねが、今の金満里の気分を伝える。大事なのはそこだ。エンタメではないのだから、仕掛けや華やかさに惑わされてはならない。(まぁ、態変を見に来る人にそんな人はいないだろうけど)

 無理しない。頑張らない。でも、誠実に全力で取り組み、きちんと伝える。自分たちのメッセージをストレートに、いつものように体の全体を使って、表現しようとする。その姿勢はとてもすがすがしく、美しい。街を颯爽と歩く男女。そんな中、転がるようにしてゆっくり進んでいく。いずれも態変の役者が演じる。いろんなシーンは別々の独立したエピソードなのだが、すべてがひとつに通じる。

 ことさらきれいに作ろうとするのではない。だが、工夫された美術装置と、役者たちのコラボレーショはとてもバランスよく、なんだか、かわいい。今回の作品はいい感じの、いい意味での、力の抜け方がなされているのだ。だが、そこで描かれることは、当然甘い夢物語なんかではない。一切ない。

 特に津波がやってきて、町を一瞬でかっさらっていくシーンなんて、呆然とさせられる。ままごとのようにしてみんなで、町を作り上げていくほほえましいシーンの直後だ。その落差こそが、この作品のテーマでもある。だが、それを悲惨なこととして、見せるのではなく、淡々と見せる。すべてを包み込んでいく大きな力をそこに感じる。

 いくつもの高層ビルがにょきにょきと伸びてきて、摩天楼ができる。そんな街を背景にして、びしっと決めた上月さんたちが、『雨に歌えば』の歌曲に乗って、さっそうとダンスを踊るシーンの楽しさ。微笑ましさ。

 あくまでも、ここにあるのは再生のイメージである。破壊と再生のくりかえしの中で、それでも生きていこうとする人のエネルギーが確かなものとして、伝わってくる。いろいろあるけど、やはり、未来は明るいと信じたい。そんな気分にしてくれる。




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