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映画・演劇のレビュー

原田マハ『でーれーガールズ』

2012-10-13 08:17:11 | その他
 『帰宅部ボーイズ』を読んで、悪い小説ではないのだけど、ちょっとブルーな気分になったので、今度はハッピーな気分になるためこの小説を読んだ。なのに、なかなかそううまくはいかない。

 今度の小説は、女の子で、中学生ではなく、高校生が主人公。1980年、岡山が舞台だ。これは、原田マハが、倉敷を最初の出発点にした最新作であり、最高傑作でもある『楽園のカンヴァス』の前に手掛けた作品である。確かにこれは悪くはない。最初はけっこう嵌ったか、とも思った。だけど、だんだんしんどくなる。つまらないのではなく、この懐古趣味が今の僕には重すぎるのだ。

 これはきっと自伝的作品なのだろう。子供の頃過ごした岡山での経験を題材にして、あの頃の高校生の気分を再生した。こういう感傷的な懐古趣味は、嫌いではないけど、なんだか、痛い。『帰宅部ボーイズ』同様この作品も世代的に重なるから、時代の気分はとてもよくわかるし、それだけで、なんだか甘酸っぱい気分にはなる。だが、今はこういう後ろ向きの作品は好きではない。自分の10代の頃なんて、今はもう思い出したくもない。確かに懐かしいし、あの頃の様々なことは今でも大切な思い出である。それは認める。でも、あの頃に帰りたいとかは一切思わない。今はけっこう毎日たいへんだし、歳を取って、いろんな意味で疲れてしまったけど、昔はよかった、とか、絶対に思わない。まxあ、それくらいに今の僕には余裕がない、という話だ。

 自分の生きた時代を舞台にして、あの頃の想いのたけをぶちまけるような、なんだか恥ずかしい小説だ。主人公がきっと原田さんそのもので、自分の周囲の人たちをモデルにしたのだろう。もちろん、完全な創作かもしれないが、そんなこと、どちらでもいい。どちらにしても、でーれー恥ずかしい小説であることは変わりはない。30年後の現代と、あの頃を交互に見せていくというのも、この手の小説の定番で、特別な事件はなく、1年間のスケッチのような描写に終始するのも、悪くはない。ただ、感傷に溺れ過ぎ。少女たちは完全に後ろを向いている。80年の岡山を、リアルタイムで描けていない。回想に入ったなら、そこからは、ちゃんとその時代の「今」を描くべきなのだ。でなければ、小説は死んでしまう。

 何が嫌だったのか、よくわかった。この小説も、先の『帰宅部ボーイズ』も、ただの懐古趣味でしかないからだ。主人公たちが生き生きしていない。ちょっと今はこの手の話はいい。

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