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映画・演劇のレビュー

『パフューム ある人殺しの物語』

2007-03-12 20:53:18 | 映画
 前半はおもしろかったが、後半になると何時の間にかただの連続殺人犯の話になり、「なんだぁ、がっかりだな」と思わせといて、あっと驚くエンディングをしっかり用意してある。香水の話が殺人に横滑りしていくのは、そのための布石だったのだと気付かされ、「まいったね」と脱帽。見事としか言いようがない。

 これほどの超大作だとは夢にも思わなかったし、しかもこんなにも感動的で、衝撃的だとは。きちんとお金をかけなくては作ることができない映画があるのだ、という当然のことに今更ながら痛感させられた。もちろんそれは『ラン・ローラ・ラン』の新鋭トム・ティクヴァの才能があったからだろうが、これといった実績もない彼にこのビッグ・プロジェクトを委ねたこの映画のプロデューサーの手腕も大きい。

 18世紀のパリ。ここはとてつもなく臭かった、という導入が凄い。こんな切り口の映画はかってなかった。特に悪臭を放つ魚市場で、腐った魚の間で産み落とされた1人の赤ん坊。彼が主人公のジャン=バティスト。彼は驚異的な嗅覚を持ち、調香師として成功を収めていく、なんていうサクセス・ストーリーなんかにはならない。映画は彼の奇行を静かに描いていく。富や名誉なんて全く望まない。ただ究極の香りを作り出すために。それだけを求めて生きていく。

 彼には普通の意味での人間としての感情はない。ただ、香りの調合だけに捕らわれている。しかも、ただの調合では満足せず美しい女の体臭を手に入れたいと望み殺人を繰り広げていく。でも、体臭って女の美醜と関係あるのかなぁ?綺麗な人はいい匂いがして、そうでない人は臭いのか?よくわからん。それにしても、このバカバカしさにはついていけない。いくらなんでも、これだけ次々人を簡単に殺して、全く捕まらないなんて、おかしいやろ、突っ込みいれたくなる。彼の凶行のエスカレートについていけず、引いてしまう。

 女を殺して、身体の脂を取り、そこから香水を作り上げるなんて、あほらしくてやってられない。しかし、このとんでもないことへの執着がラストの大どんでん返しへとつながっていく。ホラを吹くならここまでやってみろ、と言いたくなるような見事なクライマックスだ。逮捕された彼が処刑される。凄まじい群集がその様を見るため広場に押し寄せる。そして、死刑が始まるのだが。

 「その香りに、世界がひれ伏す」というコピーがここでなるほどと、唸らされるような素晴らしいエンディングが繰り広げられる。この驚愕のラストに向けてこの2時間半は作られていたのか、と気付かされる。凄まじいモブ・シーン。そしてその中でこんな事が起きていいのか、と思わされる出来事が展開する。これ以上は書けない。自分の目で目撃して欲しい。

 主人公のジャン・バティストを演じるベン・ウィショーが凄い。ほとんど台詞もなく、無表情なまま、サイボーグのように自分のすべきことをこなしていく。彼から目が離せない。

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