いったい何が起こっているのだろう、と思わされるファースト・シーン。女が死んでいる。雪の中で。そこに小学生の男の子がやって来る。何をするのかと思えば、女の服の中に手を入れ胸をまさぐる。さらにはスカートの中にも手を入れる。それをカメラは俯瞰で捉える。衝撃的な幕開けだ。その後、この女は警察に運ばれ検死される。裸にされ寝かされた女が、気付くと息を吹きかえす。
山下敦弘監督のいつもの「ゆるゆる感」とはちょっと違った世界が展開する。田舎町の日常風景。そんな中で何かが少しずつ崩れていく。無表情な主人公を新井浩文が演じる。少し頭が弱いのではないかと思わせる双子の兄を山中崇。この二人を中心に、ゆったりとしたテンポで突拍子もない話が繰り出されていく。そんな馬鹿な、と思いながらもこの町ならこんなこともあるのか、なんて思わされる。
果たしてこの映画はコメディーなのか。ジャンル分けが不可能な映画だ。今までに見たこともないへんてこな映画だ。出てくる人間が皆普通でない。でも本人たちは普通だと思っている。これ見よがしではない。自然にしているとそれが普通ではなく見える。
事件はあまりにあっけなく、しょぼい事件である。ラストで突然派出所の前で拳銃を連射するシーンには唖然とさせられる。山下監督らしいすっとぼけた終わり方だ。今回の山下監督はいつもと一味違い、とても危険な緊張感を全編に孕ませる。いつ暴発してもおかしくない。見ていて今か今かとドキドキさせられるが、ギリギリのところで暴力は収束するか、緊張は萎えてしまう。
出てくる人々はみんながみんなどこか歪んでいる。本来ならそんな反応はしないだろ、というようなことを平気でしてしまう。常識ある大人にはとても見えない。それをオドオドしながらやっている。オドオドしてるくせにけっこう平然としていたりもして、一体何を考えてるのか、よくわからない。
それは、主人公の光太郎にしてもそうなのだ。一見彼は常識人に見える。警官をしており、落ち着いている。しかし、彼もまたとても危険な状況にあることがはっきりしてくる。人間なんて多かれ少なかれそんなものだと思うが、それにしてもこの町の住人は変すぎる。彼はいつも自転車に乗りこの町を徘徊している。もちろんパトロールしているわけで、それは仕事なのだが、ただ当てもなくフラフラしているように見える。
兄の光は完全に壊れてしまう。ひき逃げしたのに、その被害者に見つかり、ゆすられ、かって祖父が住んでいた家を被害者2人組に与える。この2人がまた危ない奴らで、男の生首と金の延べ棒を持っている。どこかでやばいことをして、ここに逃げてきていることは、想像つくが、それが何なのかは最後まで見ても明らかにされない。そんなことどうでもいいことだといわんばかりの展開である。
2人の父(三浦友和が絶品だ)は家出して他の女と同棲してるが、その女の娘を妊娠させてしまう。娘はちょっと頭が弱くて、誰とでも頼まれたら寝てしまう。だから、お腹の赤ちゃんは誰の子だかよくわからない。母は呆けてしまった祖父の面倒を見ることに疲れてしまって何も考える力はない。こんな家族を中心にして、この町に暮らす人たちの点描が綴られていく。
事件らしい事件は起きているにもかかわらず、それが表沙汰にならないから、なんとなく町の平和は保たれているように見える。そんな毎日の中で光太郎は少しずつ壊れていく。水道局に劇薬を持って行くエピソード経由でラストの乱射シーンへと繋がる。だがここでも彼はとても穏やかで表面的には今までとあまり変わらない。このあまりにあっけないラストに鳥肌が立つ。なんだ、これで終わりなのか、としばし声も出ない。
この映画は『バカの箱船』から一貫してコミュニティーでの緩い人間関係を描いてきた山下監督が、この架空の町で、事実に基づいて不思議な味わいの世界を作り上げた傑作である。
かって『どんてん生活』を見た時には、この監督がこんな凄い映画を作り得るなんて夢にも思わなかった。あれからまだ5年である。その間に彼は7本もの劇映画を撮る。こんなにもマイナーで、商売にもならない映画を、こんなに連作させる日本映画界は懐が深い。
山下敦弘監督のいつもの「ゆるゆる感」とはちょっと違った世界が展開する。田舎町の日常風景。そんな中で何かが少しずつ崩れていく。無表情な主人公を新井浩文が演じる。少し頭が弱いのではないかと思わせる双子の兄を山中崇。この二人を中心に、ゆったりとしたテンポで突拍子もない話が繰り出されていく。そんな馬鹿な、と思いながらもこの町ならこんなこともあるのか、なんて思わされる。
果たしてこの映画はコメディーなのか。ジャンル分けが不可能な映画だ。今までに見たこともないへんてこな映画だ。出てくる人間が皆普通でない。でも本人たちは普通だと思っている。これ見よがしではない。自然にしているとそれが普通ではなく見える。
事件はあまりにあっけなく、しょぼい事件である。ラストで突然派出所の前で拳銃を連射するシーンには唖然とさせられる。山下監督らしいすっとぼけた終わり方だ。今回の山下監督はいつもと一味違い、とても危険な緊張感を全編に孕ませる。いつ暴発してもおかしくない。見ていて今か今かとドキドキさせられるが、ギリギリのところで暴力は収束するか、緊張は萎えてしまう。
出てくる人々はみんながみんなどこか歪んでいる。本来ならそんな反応はしないだろ、というようなことを平気でしてしまう。常識ある大人にはとても見えない。それをオドオドしながらやっている。オドオドしてるくせにけっこう平然としていたりもして、一体何を考えてるのか、よくわからない。
それは、主人公の光太郎にしてもそうなのだ。一見彼は常識人に見える。警官をしており、落ち着いている。しかし、彼もまたとても危険な状況にあることがはっきりしてくる。人間なんて多かれ少なかれそんなものだと思うが、それにしてもこの町の住人は変すぎる。彼はいつも自転車に乗りこの町を徘徊している。もちろんパトロールしているわけで、それは仕事なのだが、ただ当てもなくフラフラしているように見える。
兄の光は完全に壊れてしまう。ひき逃げしたのに、その被害者に見つかり、ゆすられ、かって祖父が住んでいた家を被害者2人組に与える。この2人がまた危ない奴らで、男の生首と金の延べ棒を持っている。どこかでやばいことをして、ここに逃げてきていることは、想像つくが、それが何なのかは最後まで見ても明らかにされない。そんなことどうでもいいことだといわんばかりの展開である。
2人の父(三浦友和が絶品だ)は家出して他の女と同棲してるが、その女の娘を妊娠させてしまう。娘はちょっと頭が弱くて、誰とでも頼まれたら寝てしまう。だから、お腹の赤ちゃんは誰の子だかよくわからない。母は呆けてしまった祖父の面倒を見ることに疲れてしまって何も考える力はない。こんな家族を中心にして、この町に暮らす人たちの点描が綴られていく。
事件らしい事件は起きているにもかかわらず、それが表沙汰にならないから、なんとなく町の平和は保たれているように見える。そんな毎日の中で光太郎は少しずつ壊れていく。水道局に劇薬を持って行くエピソード経由でラストの乱射シーンへと繋がる。だがここでも彼はとても穏やかで表面的には今までとあまり変わらない。このあまりにあっけないラストに鳥肌が立つ。なんだ、これで終わりなのか、としばし声も出ない。
この映画は『バカの箱船』から一貫してコミュニティーでの緩い人間関係を描いてきた山下監督が、この架空の町で、事実に基づいて不思議な味わいの世界を作り上げた傑作である。
かって『どんてん生活』を見た時には、この監督がこんな凄い映画を作り得るなんて夢にも思わなかった。あれからまだ5年である。その間に彼は7本もの劇映画を撮る。こんなにもマイナーで、商売にもならない映画を、こんなに連作させる日本映画界は懐が深い。