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映画・演劇のレビュー

劇団往来×LOVE JUNX『ウィン』

2015-07-15 19:17:20 | 演劇

あまりに素人臭くて、学芸会みたいで最初はかなり驚く。劇団往来が手掛けるのに、これはないだろ、と思うほどだ。舞台は装置もなく、ほとんど素舞台。お話は不思議な世界に迷い込んだ女の子がいろんな人たちと出会い、生まれてきたことの意味を知る、なんていうよくあるお話。サブタイトルに「うまれてきて、ほんとうによかった。うまれてくれて、ほんとうにありがとう」とある。もうこれだけで、お話のほぼすべてを説明してある。時代を超えて、様々な人(江戸時代の武士とかもいる!)が、それぞれの事情を抱えてここにくる。死んだ人(まだ、死にきってはいないけど)だけではなく、まだ生まれていない人とか、も出てくる。

ここは死者と生者とが行きかう場所。この先には「あの世」があるけど、ここはまだその手前。(こういう設定も素人芝居がよくやるパターン)そこに、LOVE JUNXという障害を持った子供たちを中心としたミュージカル集団のメンバーが絡んできて往来とブロードキャストショウのメンバーとコラボする。ダンスシーンはLOVE JUNXが担い、ドラマ部分は往来とブロキャが担当するというわかりやすい棲み分が成されてある。終盤の劇中劇「桃太郎」はLOVE JUNXが演じる。(保育園の発表会である)

これは僕が働く高校の視聴覚行事としての公演である。900名ほどの高校生たちとの団体観賞として見た。本校では昨年の『チンチン電車と女学生』に続いて2年連続の劇団往来である。(余談だが、この上演は僕が担当したわけではない。一切関わりないところでの上演だ。まぁ、どうでもいい話だが)

翌日のクラスでの評判は悪くなかった。昨年の戦争ものよりも、身近でよかった、という意見すらあって、驚いた。話が最初は分かりにくかったけど、お話の世界に入り込むと、楽しめた、とか、ダウン症の子たちが踊るダンスシーンに感動した、とか、さまざまな意見が出て、とても興味深い時間だった。彼等が書いた感想を読んだ後のホームルームの短い時間でのやりとりだけど、忌憚のない意見が聞けた。特に、興味深かったのは、こういう芝居が彼らにとって身近でわかりやすいのだ、と再認識できたことだ。

「桃太郎」のお話はかなり受けていた。バカバカしい設定に素直に入り込めたのがよかったみたいだ。桃太郎のわがままと、それを普通に受け流す祖父母。そういう図式を通して、もしかしたら、これは4月に見たブロードキャストショウの『温羅の千年 もうひとつの桃太郎伝説』以上に鬼と人間との関係性を描けているかもしれない、なんて思ったほどだ。この芝居から勇気をもらった、と話す生徒もいた。障害を持つ子供たちが懸命に踊る、演技するそんな場面に心打たれたようだ。この作品は、芝居としては決してうまくはない。だが、そんなこと、高校生たちにとっては、あまりどうでもいいことなのだ、と思った。

ここは死んでしまった人々がやってくる場所。この町を作ったウィンと呼ばれる男が現れ、説明を始める。ここから再び現実(生きていた時間)に戻って、(その時はここでの記憶は消される)生きるか、それとも、このまま「あの世」に行くのかの選択を迫られる。主人公のミチルのお話から入って、そこで出会う様々な人たちのエピソードを団子状にして散りばめ、みんなのそれぞれのエピソードに決着をつける。もちろん、ミチルの選択も。

往来とLOVE JUNXのコラボはあまりうまく機能していない。お互いに遠慮し合って、おっかなびっくりしているように僕には見えた。もう一歩を踏みこまなくては、芝居にはならない。下手でもいいから芝居の中心にはLOVE JUNXのメンバーを置いて欲しかった。せめてミチル役はそうして欲しい。そうすることで、彼女の見た世界にはリアルが生じたはずなのだ。もちろん、稽古も含めてそうすることは困難を極めるだろう。だが、そこに生じる緊張感は作品のレベルを飛躍的に高めるはずだ。今回の作品は、機械的にパートわけをして別々に稽古して、突き合わせたという印象を受けた。

オムニバス・スタイルもいささか安易。もっと主人公目線ですべてを作っていくべきだろう。謎解きも含めて、彼女がこの世界と向き合い、彼女が自分の問題を解決していく。その中でいろんな人たちのドラマを垣間見るという形のほうがストーリーにのめり込めるのではないか。串団子方式は、予定調和にしかならない。


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