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映画・演劇のレビュー

第2劇場『廃業(仮)』

2009-03-15 21:36:33 | 演劇
 ナツメオトコとユキタロウが廃墟と化したビルに忍び込む。2人の子供たちのドキドキするような冒険からこの芝居は始まる。まだきっと現役大学生である新人の荒田洋子と岡崎由紀子の2人組がとてもいい。この子たちの初々しさがこの芝居に命を吹き込んだのだ。小さくてかわいい2人のちびっこが、ささやかな冒険を始める。ビルの5階のわけのわからないスペースまでやってきた彼らはここで不思議なおじさんたちと出逢う。無人の廃ビルのはずなのに、そこには「芝居」というものをやっているらしい奇妙なおじさんたちがいて、今、「本番」がこの場所の向こう側(この芝居の舞台は「舞台の裏側」という設定だ。なんだかややこしい)で始まっているらしい。

 バックステージものである。そして、ネタを割ってしまうと[幽霊たちが芝居をしている]というよくあるパターンで、昨年12月にここウインゲ・フィールドで上演された『楽屋』と同じ。だが、2劇はいつものように軽いタッチでこの作品を立ち上げてくれる。

 「Love of Catherine」なんていうなんだかあやしい赤毛ものの舞台裏でのドタバタ騒ぎに巻き込まれた二人の小学生たち。始めて見る小劇場の芝居。子供たちは、大の大人が右往左往して、お金にもならない演劇なんてものに夢中になっている姿を目撃する。この芝居のよさはこの二人の視点を大切にしたことで、話自体が単なる楽屋オチにはならなかったところにある。それと、芝居をしている大人たちを彼らが新鮮なまなざしで見つめつつも、なんだか滑稽でバカみたいだ、と感じるという二律背反が作品に深みを与えた。単純そうに見えて、この芝居はそんなに単純ではない。

 二人の子供たちのコスチュームはあきらかにねずみ男と鬼太郎をもじっており、生きている子供たちが妖怪のキャラをベースにしているというこれまた単純なヒネリもおかしい。

 芝居全体が全く重くならないのがいい。ラストのオチでダメ押しのように、ここが、かって「ウイング・フィールド」という小劇場の芝居小屋だったということがわかるのだが、途中から彼らが幽霊であることは割れているので、このダメ押しがさらりと受け止められるのもいい。

 これはウイング・フィールドの閉館問題が起きた時に企画された作品で、そのことを題材にして阿部茂さんが一気に書き下ろしたものらしい。このストレートな芝居は、こうしてウイングが継続していくことが決まった今だからこそ、より深い意味を持つ作品になった。これは何よりもまず、2劇という関西小劇場界の老舗劇団のささやかな決意表明にもなっている。彼らはきっとこれからも飽きることなく30年でも40年でも芝居を続けていくのだろう。




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