エイチエムピー・シアターカンパニー『Home 静止した日常』

　サブタイトルに「３月１１日 午後２時４６分 大阪に居た 私たちの話」とある。今回の公演日は、3月10日でなくてはならないという笠井さんの覚悟。震災をテーマにした舞台。そこから喚起される生々しいものは全面には出ない。あくまでもパフォーマンスとしてスタイルがテーマに優先する。だが、静かに彼の胸の中にある想いが伝わってくる。

　舞台上、静止したままの役者、そこにモノローグが入る。もちろん静止している本人はしゃべれるわけがないから、スピーカーから本人の声（たぶん）が流れてくる。それを舞台上の役者はあるポーズのまま（最初の『山頂』では「ヤッホー」とか、声を出したポーズで）静止している。ずっとそのシーンはそれだけである。その後、台所で、食卓で、居間で、寝室で、玄関でこの「静止した日常」が演じられる。（この芝居を見た後で、パンフを見たら、そう書いてあったのだが、公演中はいくつかのシーンについては、それがどこなのか、わからないまま見ていた）この単調な積み重ねが、胸に沁みてくる。

　この作品の中では、「２０１１年３月１１日午後２時４６分」で、時間は静止したままである。いくつものその瞬間の時を、まるで永遠のように引き伸ばして見せることで、あの日のあの時をこの１時間ほどの風景として胸に刻み込む。「演技を静止したパフォーマーたちによる黙劇」というコピーそのままが、舞台上で展開する。

　笠井さんの今回のこの試みが見せるのは、ただありのまま、あの瞬間の痛みをそれぞれが胸の中にしっかりとどめてもらいたいという願いだけであり、それ以上でも以下でもない。表現としてどうこうというレベルのお話ではなく、ただ忘れない、という一点だけにすべてが収斂されていく。まるで永遠のようなその瞬間、あの時間を、この作品は、その時まではただの日常でしかなかった風景の中で描きとっていくのだ。