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映画・演劇のレビュー

オリゴ党『ブキミの谷』

2012-10-06 21:44:16 | 演劇
 とてもシンプルな構造のドラマだ。岩橋さんらしくない。でも、それは確実に彼の進化であったことに気付く。この作品に挑む姿勢は今までとは一味違う。その反面、遊びの部分が弱くなったのは残念だが、ひとつのテーマで一気に押していく。そんな力技に挑んだ。チラシにもあるがテーマは「ロボットには、できるの?」である。

 ロボットと人間の境目が見えない。というか、人間以上に優秀で人間らしいロボットと、まるでポンコツで、人間としては問題のある人間たちが織り成すドラマというのが、この作品の根底を流れる。しかも、健常者と身障者というテーマをそこに被せるという大胆な荒業を見せる。その2つを同じ次元で見せるというのは、簡単なアイデアに見えるが、かなり大胆な行為ではないか。両者の差異をどこに、取るか。そんな難しい問題に挑む。身障者は社会的弱者で健常者の介護なしでは、生活できない、わけではない。ただ、なんとなく上から目線でものを見る(車椅子の人間はいつも健常者から見下ろされている)ことに、こだわる。視線の問題は健常者と身障者に限定されない。

 心を病んだ人間たちを、収容し、彼らのリハビリを兼ねた施設。ロボット工学の研究者、野田博士の私設研究所と、そこに併設された図書館が舞台となる。博士の死後、そこの管理を任された業者の人間が2人、ここにやってくる。彼らはここを売却するために資産の把握処分のためにやってきた。ここでは、人間と、ロボットが共存して生活している。そんな中に入り込んで、生活するうちに2人と周囲には当然のように齟齬が生じる。

 それぞれの関係性をちゃんと描きこみ、それぞれの決着をつける。とても丁寧なドラマの作り方をする。曖昧にはできないからだ。岩橋さんの本気がしっかりと伝わってくる。大きなテーマを見せるのではなく、それを見せるためにちゃんと小さなことのひとつひとつを描きこむという姿勢を見せる。2時間10分と、長尺になったのは、そんな姿勢ゆえであろう。自分には何ができるのか、人間であるとか、ロボットであるとか、そんな問題ではなく、われわれは何なのか、という大きなテーマがちゃんとこの作品の底には流れる。


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