この夢のような時間に酔う。これはハードボイルドだ。現実ではない。夫はソファで居眠りをしている。その耳もとで、男と女が会話をしている。それは彼の夢の中の情景だ。だが、その男は月琴の修理のために、夫のもとを訪れてくる。夢が現実に浸食してくるところから話が始まる。
ある夫婦の物語だ。もうすぐ子供が生まれる。彼らの時間が大きく変わる。そのことに、彼らは戸惑っている。出産を控えた妻(横田江美)と、体調不良で入院する夫(松原一純)。ギター職人の夫のもとに、ある男が仕事の依頼でやってくる。月琴の修理をたのまれる。だが、同時に殺しの依頼もされる。
この現実にはあり得ない話を、こんなにもクールに見せる。おだやかな夫婦の日常のスケッチの中に、殺しとか、不倫とか、(これはあり得るか)中国マフィアとか、もう絶対にない。だが、そんな話がごく自然に挿入されていく。彼らはこういう展開をまるで驚くことなく受け入れていく。
ふたりはとても落ち着いて自然にふるまっている。本当なら、パニックに陥って、今すぐ暴れだしてもかまわない。なのに、そこからはみ出すようなドラマチックな展開すら受け入れていく。先にも書いたように、妻は再会した高校時代の恋人と2人で逃避行しようとするし、夫は素人なのに、殺しを引き受ける。銃なんて、持ったこともないのに、与えられたトカレフで、男を殺してしまう。
彼はただ、夢を見ているだけなのかもしれない。少なくとも冒頭のエピソードを夢の話への導入として受け止めるとそうなる。だいたい現実にこういうことは断じてない。だが、すべてが夢のお話だとも、言わない。
とても静かに淡々とこのお話を追っていく。どこにたどりついても構わない。荒唐無稽なお話のはずなのに、それが、とても自然に描かれる。ある種の危機感が根底にある。それは日中関係の悪化なんてことにしても構わない。中国マフィアの抗争を背景にしているからそこからの深読みは十分できる。だが、それよりもまず、これは夫婦の話として読むほうがおもしろい。同居する妻の兄(福山俊郎)のエピソードが、コメディリリーフのように見せかけて、実はそうではないし、とても興味深い。彼の軽やかさが、この作品の出口に見えた。
竹内銃一郎さんからこのオリジナル台本をプレゼントされた土橋淳志さんは、こんなにもつかみどころのないお話を自然体で見せることにする。すべてがありのままに描かれていく。理屈で武装することもなく、何の仕掛けも施さず。そうすることで、この不思議な物語はリアルの感触を持つ。
ある夫婦の物語だ。もうすぐ子供が生まれる。彼らの時間が大きく変わる。そのことに、彼らは戸惑っている。出産を控えた妻(横田江美)と、体調不良で入院する夫(松原一純)。ギター職人の夫のもとに、ある男が仕事の依頼でやってくる。月琴の修理をたのまれる。だが、同時に殺しの依頼もされる。
この現実にはあり得ない話を、こんなにもクールに見せる。おだやかな夫婦の日常のスケッチの中に、殺しとか、不倫とか、(これはあり得るか)中国マフィアとか、もう絶対にない。だが、そんな話がごく自然に挿入されていく。彼らはこういう展開をまるで驚くことなく受け入れていく。
ふたりはとても落ち着いて自然にふるまっている。本当なら、パニックに陥って、今すぐ暴れだしてもかまわない。なのに、そこからはみ出すようなドラマチックな展開すら受け入れていく。先にも書いたように、妻は再会した高校時代の恋人と2人で逃避行しようとするし、夫は素人なのに、殺しを引き受ける。銃なんて、持ったこともないのに、与えられたトカレフで、男を殺してしまう。
彼はただ、夢を見ているだけなのかもしれない。少なくとも冒頭のエピソードを夢の話への導入として受け止めるとそうなる。だいたい現実にこういうことは断じてない。だが、すべてが夢のお話だとも、言わない。
とても静かに淡々とこのお話を追っていく。どこにたどりついても構わない。荒唐無稽なお話のはずなのに、それが、とても自然に描かれる。ある種の危機感が根底にある。それは日中関係の悪化なんてことにしても構わない。中国マフィアの抗争を背景にしているからそこからの深読みは十分できる。だが、それよりもまず、これは夫婦の話として読むほうがおもしろい。同居する妻の兄(福山俊郎)のエピソードが、コメディリリーフのように見せかけて、実はそうではないし、とても興味深い。彼の軽やかさが、この作品の出口に見えた。
竹内銃一郎さんからこのオリジナル台本をプレゼントされた土橋淳志さんは、こんなにもつかみどころのないお話を自然体で見せることにする。すべてがありのままに描かれていく。理屈で武装することもなく、何の仕掛けも施さず。そうすることで、この不思議な物語はリアルの感触を持つ。