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映画・演劇のレビュー

『藁の楯』

2013-04-21 09:06:50 | 映画
 こんなにも画数の多い漢字を映画のタイトルに使うのはよくない。しかも、漢字を読めない人もいるだろうし。人は自分が読めないタイトルの映画を見には行かないから、その時点で興行的にはこれは失敗である。来週末からロードショーなのだが、大丈夫だろうか。とても心配だ。こんなにも気合を入れた大作映画なのだから、そこそこにはヒットしてもらいたい。

 でも難しいだろうなぁ、というのが実感だ。映画の内容には文句はない。だが、もちろんタイトルでもなく、見せ方に難があるのだ。アクション映画なのにテンポが悪いのは致命傷だ。三池崇史監督は今回なかなかストイックで悪くはないのだが、いかんせん台本が穴だらけなので、突っ込みどころ満載。これならいつものように勢いだけで、むちゃくちゃしたほうがよかったのではないか。笑える映画にでもしてくれたなら、楽しめたのだが、ここまでシリアスにされると、もっと説得力のある映画にしてくれなくては納得がいかない。

 序盤戦の、道路を封鎖して、すさまじい数のパトカーを走らすシーンは圧巻で、そこに暴走トラックが突っ込んでくるスペクタクルはド肝を抜かれる迫力だ。さらには新幹線を使ったアクションも(日本の新幹線が使えないから、わざわざ台湾まで行ってロケした)すごい。ちゃんとそれが映画の見せ場にはなっている。

 だが、話があまりに雑すぎて、だんだん間延びしてくる。福岡から東京まで犯人を護送してくるSPたちを待ち受ける苦難の数々という話の展開はわかりやすいし、悪くはない。日本中を敵に回して凶悪犯を護送する。自分の手で殺したいほど憎らしい犯罪者を守る。たとえそれが仕事であるとはいえ、不条理な話だ。彼を殺せば10億円が手に入る。許し難い悪人を成敗することがお金になるのだから、誰もが彼の命を狙うのは当然の話だろう。日本中にはお金に困っている人間ならたくさんいる。切実な事情を抱えて、なんとかして、お金を手にしたい。しかも、殺していいのは誰もが憎む凶悪犯なのだ。殺人は正義からの行為だとも言えるという、なんとも都合のいい話なのだ。

 一見わかりやすくて、娯楽映画として悪くないストーリーに見える。だが、この話に説得力を与えることはいささか困難なのだ。民間人も彼を殺そうとするのだが、厄介なのは、警察側の人間だ。誰が敵で誰が、味方なのかも、わからなくなるサスペンスも加味しながら展開する。いろんな意味で贅沢な映画なのだが、それゆえ話に締りがない。ゾンビ物のようにどんどん敵がきて収拾つかなくなるのなら笑えるがそういう映画ではない。

 2人のスペシャリストであるはずのSPたちが、なんだか間抜けで、だんだんばかばかしくなるのはなぜか。松島菜々子はぼんやりしていて、殺されるし、大沢たかおなんて、犯人の藤原竜也に語りすぎ。SPは必要なこと以外はしゃべらないのではなかったか? あんなに説明せんでもいい。さっさと殺すなり、何も言わずに最後まで護送するなりしたらいい。なんであんなに熱くなるのか。いや、あの状況なら熱くなるのは当然であろう。だが、それでもそれは職業柄NGではないか。

 派手な見せ場はたくさんあるのだが、それが本当に必要だったのか、それすら疑問視される。そのくせ静岡から東京までの部分も省略されて、いきなりクライマックスというのも、なんだか杜撰。たったひとりになって、どうしてあそこまで行けたのでしょうか?

 もっとハラハラドキドキさせてくれたならいいのに、なんだかいろんな部分で話が冗長になったり、穴だらけの展開になったりして、なんだか切れが悪いのだ。

 しかも、そんなこんなのいろんなことに目を瞑ってみても、まず映画としての後味が悪いのは致命的だ。そのことがもっと社会的なドラマとして見れるように収めてあるのなら、まだ、いいのだが、それもない。あくまでも単純娯楽活劇なのだ。まぁ当然のことだが。いろんな意味で収まりが悪い映画だ。


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