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映画・演劇のレビュー

『本気のしるし』

2022-08-25 11:00:08 | 映画

『本気のしるし 劇場版』は一昨年のキネマ旬報ベストテンの3位にランクインした。ちなみのその年のベストワンは『スパイの妻 劇場版』である。ありえない、と思う。2本ともTV作品として作られたものだ。それがその年の劇場映画のベスト3に入っている。あの年の日本映画を代表する2作なのだ。しかも、海外でも大評判である。そんな時代がやってきてしまった。ネットフリックス映画がアカデミー賞を席巻する時代なのだからそんなのは当然の事態なのかも知れないけど「なんだかなぁ、」とも思う。映画がフィルムでなくなったときにも時代を感じたけど、それ以上の違和感がある。もう映画は僕が知っていた映画ではないのかもしれない。

もちろん、ここで書きたいのはそんなことではない。この深田晃司監督作品ことだ。これはいろんな意味でも驚きのTVドラマだった。本来なら劇場版の話を書きたいけど、残念ながら僕は劇場版を見ていないから書けない。全10話からなるTV版で見た。23分の10本。230分の上映時間。それは劇場版の232分よりも1分短いだけ。しかも、この作品のTV版は1話完結ではなく、完全につながったまま。こんなTVドラマは生まれて初めて見た。

それは、こういうことだ。いきなり始まり、いきなり終わる。各エピソードは23分のところで唐突に終わるようになっている。もちろんそれなりには編集されているけど、ぶつ切りに近い感触だ。メインタイトルは最初に出るのではなく自由自在にどこかで(なんと23分の放送時間の真ん中以降で出る回もある!)出てくる。エンドタイトル、クレジットも同じだ。エンドタイトルの背景でドラマは進行する。クレジットの後でそれがまだまだ続く場合も多々ある。翌回の最初は前回のラストと直結している。前回のあらすじなんか当然ない。だから10話をそのままつないだら231分の映画になる。(最終話のみ24分と表記があった)映画版を見ていないから、どういうふうに編集されているのかはわからないけど、たぶんそのままではないか。ということは、このTV版を連続して見たら映画版を見たこととほとんど変わらない、ということになるのだろう。

と、ここまで書いてまだ、この作品自身のことはまるで書いていないことに気づく。驚きはそこではなく、ここから書くことなのだ。僕はこんなありえない映画(と、あえて書こう!)を見たことがない。わけのわからなさのも程というものがあろう。そんな「程」を完全に超越している。異常もここに極まる。こんないいかげんで信じられない女がいるわけもない。しかも、そんな女にひきづられていく男も。そのありえないが230分間も続くのだ。なのに、それをずっと見続けることになる。ここから目が離せない。見ながらずっと、「それはないわぁ、」とつぶやき続ける。2話ずつで止めて3日見て、その後一気に4話見た。だから4日かけて見ることにした。だって一気見したらもったいない。というか、この話に耐えられない気がしたのだ。衝撃のラストまで、というか、あのラストなんてただ最初に戻っただけで、衝撃ですらない。

主人公の森崎ウィンだけではない。彼女(土村芳)の周囲にいる男たちはみんな彼女に巻き込まれる。彼女がトラブルメイカーなのはわかりきったことなのだが、その行為だけではなく、もうその存在自体がとんでもない。嘘つきで、何を考えているのかわからない、とかそんなありきたりな感慨はない。どうしてこんなことになるのか、もうその時点で理解不能。だからめちゃくちゃな彼女の尻ぬぐいをすることになる男たちは彼女を助けているのか、彼女にいじめられているのか、何が何だかそれすらわからない。彼女はひたすら「ごめんなさい!」と謝る。彼女はNOと言えないからどんどんトラブルに巻き込まれ、でも自分ではどうにも対処できないから、誰かがその尻ぬぐいをする。まぁ、それは基本は森崎ウィンなのだが。でも、彼だけではなく彼女を地獄に突き落としているはずの夫(宇野祥平)やヤクザ(北村有起哉)だって同じ。みんな彼女に巻き込まれている。とんでもない女。

そんな彼女のミステリアスな暴走を映画はただそのまま見せていく。そして僕たち観客は、そのあまりのことに唖然としたまま見守るだけ。こんな悪夢のような231分なのに、それがなんということもなく、描かれる。実は僕はまるで納得がいかない。だから、この映画を高く評価しない。ただただ驚いた、とだけ書く。


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