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映画・演劇のレビュー

新宿梁山泊『風のほこり』

2007-12-01 11:46:15 | 演劇
 とても美しい芝居だった。昭和5年の幻を見事に見せてくれる。とても儚い一瞬間の輝きを、ほこり舞う地下の文芸部室の閉ざされた空間の中で描く。

 金守珍が演出する唐十郎作品は、唐本人の演出するものとは微妙に違う肌触りがある。猥雑な唐の世界が、とても透明感のある静かな世界に変容していくのが不思議だ。描かれる世界は紛れもなくいつもの唐十郎のものなのに、それが金の手に掛かると、とてもしっとりしたものになる。今回は金のために書き下ろした作品なので、いつも以上にそんな特色がよく出ている。

 お話自体はいつもながら、摑みどころがない展開を見せる。人形の瞳を持つ女が語る物語はこの地下室の中で、想像の翼を広げていく。何が現実で、どこからが妄想なのかなんて、どうでもいいことだ。この部屋にいて、ここで物語を綴り、時を過ごす。様々な人物がここにやって来る。彼らたちと関わりあうなかで、幾つもの物語が重層する。

 ラストのスペクタクルもこの小さな空間ならではの仕掛けといえよう。浸水したこの部屋の黒く濁った水溜り(これだけの水があれば、これはもうちょっとした池か何かだろう)の中から鏡が立ち上がり、そこに加代(渡会久美子)の姿が映る。鏡の割れた部分を通過して光が差し込む。この息をのむほどの美しさを堪能する。これは一瞬の幻なのだと改めて思う。

 昭和5年、浅草。唐十郎の母親をモデルにして、芝居小屋の地下にある劇団の文芸部、台本を書くための修行中の若い女の見た妄想。時代が大きく動いていく直前の風がとまったような時間。一瞬の心地よいまどろみの時間。そんな時と場所。そこを舞うほこりのようにこの芝居はキラキラ輝く。

 ラストの3枚の字幕。昭和4,5,6年。エログロナンセンスの流行から満州事変へ。時代は動き、心地よい時間は失われていく。芝居は、そんな時代への愛惜をこめる。とてもしっとりした芝居だ。

 お尻を半分丸出しにするヒロイン渡会久美子がいい。彼女を中心にして、すべてが動いていく。この狭い劇場に、こんなにも豊かなものが作り上げられていくことにも驚く。4トン車を横付けして、搬入したとオーナーの関川さんが言っていたが、さもありなんと思う。シンプルなのに手の込んだ舞台美術も素晴らしい。

 

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