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映画・演劇のレビュー

『新しい靴を買わなくちゃ』②

2012-10-13 08:44:24 | 映画
 まるでパリの街を目的もなくフラフラ歩いているみたい。そんな映画だ。でも、心ウキウキするわけではない。女(中山美穂)にとってそこは、ただ、いつもの日常のひとこまの風景で、男(向井理)にとってのそこは、まるでリアルじゃない書割の観光のひとこま。その2つが交錯して、化学変化する魔法の瞬間を描く、はずなのに、ものすごく、テンションは低い、のがこの映画の特徴。猜疑的になっているのだ。パリなのに、魔法にはかからない。それは、2人は、もう子供じゃないし、夢見る時間は終わってしまったから、この出逢いは、心ときめくものではない。恋の始まり、だなんて思わない。なんだかちょっとさびしい。

 最初から、そこには心ときめく未来はないとわかっている。へんな期待はしないし、淡々と受け止めていくだけだ。こんなふうにして、大人の恋を描いた映画って、今まであまりなかったはずだ。というか、そんな映画作らない。映画は夢見る装置なのだから。これはあまりといえばあまりに、映画向けの展開ではない。

 しかも、併行して描かれる若い2人の恋物語(向井の妹である桐谷美玲とその恋人の綾田剛)も、とてもあっさりしている。えっ、そんなんでいいの、と思うくらいにドライだ。だけど、そのドライに見えるところが、反対にとても切なく胸に迫ってくる。彼女にはもう恋は終わったと、わかっていた。そのことを確かめるためだけに、パリまでやってきた気もする。お兄ちゃんを連れて来てまで、ゲン担ぎをしたけど。(今までは、兄が一緒だとなんでもうまくいった!)

 これはお兄ちゃんと妹の恋物語。別行動のたった3日間。それぞれが、それぞれの体験をして、再び日本へ、いつもの生活へ戻っていく。ラストの、疲れた2人がホテルのロビー居眠りする姿がとてもかわいい。

 エピローグの新しい靴のプレゼントが届くエピソードも素敵だ。「エッフェル塔がいつも私を見守ってくれるから、生きていける」という、アオイ(中山美穂)の、ありきたりなせりふが、なぜか胸に沁みる。きっと、そんな単純なものを、よりどころにして、人は生きている。それでいいんじゃないか、と思わせてくれる。

 これは疲れた心に、じんわりと沁みてくるそんな素敵な映画だ。映画を見ながら、実はとてもリアルに現実のことばかり考えていた。この映画の主人公たちの距離感がそうさせるのだ。でも、僕ももう「大人」なので、そんな姿勢が反対に心地よかった。



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