習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『フリージア』

2013-04-30 21:03:23 | 映画
熊切監督の映画で、これだけは見逃していた作品だ。玉山鉄二と西島秀俊主演。低予算の作品だが、こういうタイプのSF映画はめずらしい。ちゃんと世界観が伝わらなくては成立しないタイプの作品なのだが、低予算ゆえ、それが不可能になっている。すべての責任をその一点に帰するのはよくないことだと思うし、原因はそれだけではないが、まずその一点がすべての原因だと思う。やっぱり。それにしてもどうしてここまで惨い映画になったのだろうか。

 こういうシンプルなお話は外堀から固めなくてはリアルにはならない。主人公の2人がとても寡黙で(というか、何もしゃべらない)それはそれでいいのだが、映画まで寡黙で何も描かないのでは何をどう受け止めて反応すべきなのかすらわからなくなる。15年前の事件はどうして起こったのか。それに巻き込まれた子どもたち。生き残った3人のその後の人生。15年の歳月を経て再会する彼らがどう過去を引きずり、どうそれから逃れて生きてきたのか。あまりに都合よく彼らがもう一度向き合うことになる安直さはとりあえず目を瞑る。だが、それ以外はちゃんとして欲しい。

 しかも「敵討ち法」なんていうアホらしい基本設定。これにリアリティーを与えなくてはこれは映画にはならない。だが、まるでそれが出来ていない。そこは致命的なミス。『ブレードランナー』とまでは行かなくても、せめてあれのいいところのひとつでも取り込めたなら、もう少しはましな映画になったのではないか。追う者と追われる者との間に生じるはずの緊張感がまるでない。彼らが少年のときに与えられた使命に何の意味があったのか。なぜ、彼らだったのか。その説明もないから、話が読めないし、よくわからない。その基本設定もわからないから、何をどう見ればいいのか、まるで見えない。ただひたすら戸惑うばかりだ。原作のマンガはもう少しちゃんとしているのかな。映画からはわからないけど。たとえチープな描写しかできないにしても、主人公たちの心情だけでも嘘がないように描き込めたなら、信用できる映画になったのではないか。これではなんだかすべてが空々しく全く乗り切れなかった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『きっとここが帰る場所』 | トップ | 『図書館戦争』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。