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映画・演劇のレビュー

『波紋』

2023-05-28 10:11:27 | 映画

荻上直子が監督・脚本を手がけた最新作。主演は小林聡美ではなく、『よこがお』の筒井真理子。そして扱うのは「震災、介護、新興宗教、障害者差別」といった様々な現代社会が抱える問題。そのてんこ盛り。それらに翻弄されるある家族の姿を描いた作品なのである。これは彼女の新境地だろう。

描かれるのは、従来のハートフルな世界ではなく、リアルで過酷な現実社会の出来事。前作『川っぺりムコリッタ』が今までの優しい世界の集大成なら、これは目の前にある現実世界の荒波に漕ぎ出した最初の一歩だ。こんなにも惨い現実を前にして、筒井真理子演じる須藤依子は負けない。彼女自体はとんでもない女性だし、無茶なこともする。宗教に頼って家庭崩壊も辞さない。だけど、なんとかして倒れないで、どっこい生きている。生きていく。

壊れてしまいそうになりながらも、なんとか持ち堪える。ある日、震災以後放射能汚染を心配していた夫(光石研)は家出する。残された夫の父の介護をしながら、パートのレジ打ちをする。息子(磯村勇斗)は大学からは家を出て地方に行きそこで就職して戻らない。やがて、義父は亡くなり、たった一人になる。

圧倒的な展開に焦る。なんだ、これは、と思う。怪しい新興宗教にハマり、家中霊験あらたかな水のペットボトルだらけにして暮らしている。宗教の世話人(キムラ緑子)、パート先の面倒な客(柄本明)、それだけでなく優しい同僚(木野花)もなんだか怪しい。彼女自身が怪しい女だから、怪しい人たちが集まってくるのか。

犯罪に手を染めるのではないけど、いろんなことが、なんか大変なことになる。癌になって夫が帰って来たところから、不穏な空気がますます漂ってきて、危険指数は高まる予感。ますます緊張が高まってくる。きっとこの先何かよくないことが起きると思う。息子が恋人を連れて帰郷。だがその恋人は難聴で、6つも年上。そんな結婚を依子は許せない。

映画はコメディではなく、シリアスでもない。微妙なバランスを保ちながら、確実にある種のカタストロフに向かう。2時間、息を詰めてスクリーンを見守る。ラストのまさかの喪服でのフラメンコまで、一気だ。筒井真理子の圧倒的な存在感。彼女の一挙手一投足から(危なっかしくて)目が離せない。なんだかよくわからないけど、すごい映画だった。もちろんそれは誉め言葉だ。

 


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