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映画・演劇のレビュー

Ugly duckling『100年トランク』

2008-11-14 23:26:36 | 演劇
 作:樋口美友喜、演出:池田祐佳理のコンビネーションが最高に上手く機能した傑作だ。毎回はずれがないアグリーなのだが、今回はいつもと違い、とても単純な筋立てなのに、それがこんなにも心地よく素直に胸に届く。樋口さんがここまでシンプルなドラマを書いたことって今までなかったことではないか。シンプルさが力となっている。そんな台本を池田さんが何の衒いもなくストレートに見せた。これって正直言って怖いことだろう。だが、彼女たちは怖れることなく正攻法で見せる。

 妻をトランクに入れて旅する男(サカイヒロト)。彼は妻という人形とともに旅をする。殺した女をバラバラにして108のトランクに入れている男(太田浩司)。2人の2つのトランクが運び屋によって間違って持っていかれてしまうことから始まり、もう一度もとに戻る瞬間を頂点にして組み立てられたドラマは、さまざまなイメージの中での堂々巡りのお話が繰り返されていく。2つの話が一瞬すれ違いまた別れて行く。108個目のトランク、この一番大きなトランクには何も入っていない。でも、そこには目に見えない魂が入っている。

 運び屋はトランクを目的地に運ぶことが仕事だ。彼らは職業上の約束として当然のことだが、どんなに気になろうとも、トランクの中身を見ることは出来ない。自分が何を運んでいるのかは秘密だ。見えないものを運ぶ。ゴミを分別する女は棄てられたものを丁寧に分ける。トランクの中からおびただしいゴミが出てくる。その他、風呂敷き屋だとか、歌うたいの女とか、様々な人物が出てきては舞台上を交錯して行く。歌を歌うことが通行手形となっている。歌えない男だけが取り残されるというファーストシーンからトランクの中の妻カタメが歌うまで。

 トランクを持って人は旅をしていく。100年は人の一生分の時間だ。とはいえ人はなかなか百年を生きれない。永遠のようで限りのある時間。そんな中で旅を続ける人々。

 様々なイメージが交錯する中、それらがとてもシンプルな構造の中に納まる。これは夫婦の愛の物語だ。報われない想いの物語でもある。そのことがラスト近くになってわかったとき、すっきりした気分になれる。とはいえ、本当はそんな単純なものではないことも見ていればわかることだ。いろんな要素をごった煮にして、でも核心はとてもシンプル。今までの樋口さんの芝居にはなかったタイプに仕上がっている。

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