コテコテの少女マンガの王道を行く映画を見た。普通恥ずかしくてここまではしない。微妙というより、「これはないわ。」と思うしかないお話の展開だ。でも作者は最初からそれだけを意図して作っているのだから、この定番の(鉄板の)展開を一切外すこともなく突き進む映画世界に浸って見ることにした。たまにはこういうのも悪くはないという気分だった。なんだか毎日がしんどくて塞ぎがちだったので、もう何も考えないことにした。
少し最初は忍耐が必要だったけど、背景となった風景があまりに美しくて、徐々に「もうなんだって許せるか、」という気にさせられた。これはロケーションの勝利だ。主人公たちは、かわいいし、のどかで、嫌味がなくていい。だから頭を空っぽにして見た。ただし、サブタイトルの「きみに恋した30日」は嘘。実質40日くらいだし、彼女の視点からの映画なので「きみ」ではなく「あなた」でなくてはおかしい。
16歳の夏、高校一年生の莉緒(葵わかな)は田舎のおばあちゃんのところに弟とふたりで行くことになる。ふたりを迎える一面のひまわり畑の黄色が美しい。8月の初めには友人たちが1週間来てくれたし、お盆にはお母さんもやってくる。30日以上の夏休みまるごと、そこで過ごす。現地の高校生と仲よくなり、最高のひと夏を過ごすことになる。もちろんそこで初めての恋をする。「夏の日の思い出」である。そしてこれは現実の出来事ではなく、少女が見た夢の世界のお話なのだ、と理解すればいい。
それにしても舞台となる田舎の風景。美しすぎる。山の緑と川の青が素晴らしい。こんな景観の中で過ごす時間は最高だろう。縁日、花火大会、夏祭りと、イベントもちゃんと盛りだくさん。ヒロインの彼女と共にこの夢の時間が体感できる。お話の方も、好きになった男の子には幼馴染の恋人がいたり、東京から彼女が好きだという男の子がやってきての恋のさや当てがあったり、もう大判振る舞いだ。だけど、それが嫌味にはならないくらいにさりげなく描かれていくので、嘘くさいのはしかたないけど、一応は受け入れらる。いやではない。この映画がいいのはそういうところだ。あっさりしたストーリーで心地よい気分で流されていく。特別なお話ではなく誰もが経験したことにあるような夏の風物詩でも見ている気分で「こんなことってあるよな」とか、「あったらいいね」とか。そんな気分に浸れる。ただそれだけの映画なのだ。それで満足できるように作られてある。当たり障りのない映画だ。そこがいい。2時間、頭を空にして楽しめた。