こういう地味でまじめな映画がどんどん劇場から駆逐されていく。隅に追いやられて、やがて、追い出される。今の映画館は子供向けのアニメと、ヒーローものばかり。
これは父と子の和解を描く感動のドラマだ。『エデンの東』だって、きっと今の時代に作られたなら、話題にもならず消えていく可能性がある。そんな時代に誠実に丁寧にこんな映画が作られる。アメリカ映画も棄てたものではない。しかも、主人公を演じるのが、ロバート・ダウニー・Jrだ。みんなが知ってるアイアンマンである。先の表現と矛盾するようだが、ヒーローもので再生した彼が、忙しいのに、(次から次へとマーベルコミックの新作が作られる)ちゃんと、こういう映画に挑む。本来彼は個性派で癖のある役者だった。そんな彼が昔ならポール・ニューマンやレッドフォードなんかが演じるような役を自分の持ち味を生かして演じる。自分を全く認めない父親(ロバート・デュバル)と対峙する。
厳格な父で判事である彼に反発し、家を出た。今では都会で(ニューヨークね)有名な弁護士になっている。そんな彼が、母親の葬儀のため久々に田舎の町(インディアナね)に帰郷した。そこで、父の起こした事故の裁判で、彼の弁護をすることになる。よくあるパターンなら、裁判を通して両者が歩み寄り、それまでの誤解が解けて、ハッピーエンドを迎えるという展開だろう。だが、この映画はそう簡単なふうにはいかない。2時間20分に及ぶ大作だ。丁寧に、実に丁寧にそんな親子の機微を描く。
諍いはどこから生じたのか。それがどんな経緯をたどって今に至るのか。事故は過失か、故意か。事件とプライベートな家族の問題とを、時には並行し、絡ませながら、見せていく語り口は見事。飽きさせないし、最後まで緊張が持続する。
ラストシーンが美しい。あんなふうにして穏やかに父と息子が過ごす時間が本来のあり方だったのだ。それが父の死によって達成される。皮肉ではない。それほどに遠く険しい道のりだったのだ。ようやくそこにたどりついた時、穏やかな表情で父は死ぬ。湖面に浮かぶボートを捉えた映像が美しい。