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映画・演劇のレビュー

『酔いがさめたら、うちに帰ろう』

2011-08-01 22:13:12 | 映画
 どうしようもない男。弱い男。でも、嫌いにはなれない。離婚したのに、まだ未練があり、彼のことを大切に思い、面倒を見てしまう女。アルコール依存症の男と、彼を支える元妻と2人の子供たち。彼女は死んでしまう彼を看取る。

 東陽一監督の久々の新作である。たぶん『わたしのグランパ』以来となる。年齢的にもあと何本撮れるのかわからないし、今の映画界で彼のような昔ながらの映画作家が映画を撮れる状況はかなり厳しいはずだ。今回の作品だって、商業映画としてそれなりの動員が見込めるかというと、かなり厳しかったはずだ。しかも、作家として妥協した仕事は出来ないだろうから、企画を通すことは困難を極めるだろう。若い頃(と、いっても40代50代だが)のとんがった映画はもう作れないし、作る気もないだろう。ならば、今、何がやりたいのか。今、彼が求めているものって何だろう。その答えが作品の中にある。

 このどうしようもない男と彼を許す周囲の人たちのドラマは甘くて優しいだけの物語ではない。夫、浅野忠信。妻、永作博美。この2人のあきらめたような力の抜け方がいい。自分たちの人生を受け入れて静かに生きていこうとする姿が心に沁みてくる。アルコール依存症を克服する。死の病を乗り越える。幸福な家庭を築く。子供たちを幸せにする。自分の仕事を全うする。いっぱいいっぱい後悔はある。自分の弱さに腹を立てた日もあっただろう。自分を甘やかしていたわけでもない。でも、無理だった。妻子につらくあたり、老いた母親にも迷惑をかけ、どうしようもない生き方をした。せめて、最後は彼が望んだように自分の家で死なせてあげたかったが、その願いもむなしく死んでいく。しかたがない。

 そんな男をただ淡々と見せる。浅野忠信はいつものように自然体だ。ドラマチックな展開を描きたいのではない。ただありのまま生きること。弱さに負けるでもなく、抵抗を試みるでもない。自分のすべてを受け入れてそこに在る。そんな男を描く。


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