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映画・演劇のレビュー

『机のなかみ』

2007-12-03 22:16:46 | 映画
 次々に不思議な才能が現れてくるから今の日本映画からは目が離せない。ただ、作品の数があまりにも多く、その結果カスも多くなるため選択については、かなり困難を窮めることになる。何がよくて何がつまらないかは、自分の判断に委ねるしかないが(映画評論家なんて、あまりあてにならないし、だいたい評論家であってもこれだけ続々と新作が公開されれば追いかけることは不可能だろう。)微妙な出来の映画も多く、かなり難しい。

 自分の嗅覚を信じるしかあるまい。作品のスケールが小さくて、作家自身もピン・ポイントで攻めてくるから、自分の好みと合うかどうかも、評価の分かれ目になる。客観的な評価はかなり難しい。

 吉田恵輔監督の本格的デビュー作『机のなかみ』も好みが分かれる微妙な出来の作品であろう。例えば、森田芳光と比較するとこれはあまりにもマニアックで小粒すぎる。『のようなもの』と較べてもそうだし、内容的には『家族ゲーム』と較べたいが、それではあまりにも相手が悪すぎる。新人作家としては、ねらいも悪くないし、今まで見た事もない世界観を見せてくれる。見事な切り取りが出来ている。

 前半と後半がきれいに分かれてしまうという思い切った作り方は、作品をますます小粒にしてしまい、安っぽくする。映画としてはユルユルの作りである。しかし、その軽さがこの映画の身上だし、変な顔のエキストラを全編に配するなんていうバカバカしさも悪くない。だいたい主人公のあべこうじ自体が変な顔だし、(彼はとても映画の主人公の顔ではない。安物の鴻上尚史みたいだ。)こいつが大学生というのもなんだかわざと安く見せるためのピンク映画的アプローチに思える。しかも、彼が家庭教師先の美少女(ヒロインの鈴木美生。この子はもちろんかわいい。)に下心ありありの妄想を抱く、というこれまたピンク映画のようなストーリーを見せる。前半のあまりの安っぽさに「この映画は大丈夫か」と心配になる。しかも、前半の終盤、大学入試に失敗した彼女を慰めるため、ベットに招いていくなんていうベタな展開は、とても見ていられない。ギリギリのところで、父親が帰ってきて二人のいる部屋に入ってくる、というところで、いきなり画面は乱れ、真っ暗になる。ここで、もう一度ファースト・シーンに戻る。ここからは今度は彼女の側からのドラマが始まる、という趣向である。

 こちらは少女を主人公にした爽やかな青春ものになる。ほとんどオリジナルビデオの作り方なので、1本の映画としての強度はあまりに弱い。しかも、前半のシーンに追いついた後の思いがけない展開も、幾分バランスを欠いている。少女の気持ちにもう少し踏み込まなくては説得力がない。父親が家庭教師ではなく、娘を殴って血まみれになる、という部分が衝撃的になりきれないのは、そのためだ。この惨劇がもう少し上手く描けたなら、この映画は傑作になったかもしれない。

 しかも、この後の後日談が長すぎるし、延々と泣き続ける少女と、同じように延々と泣く家庭教師の恋人の姿を並行して見せるのもあざとい。

 白いセーラー服とミニスカートで、家庭教師が来る時はすべて押し通すという不自然さは、監督のねらいなのだが、ここもあざとい。リアリティーよりも、ちょっとした恐怖に繋がる笑いを描こうとした仕掛けの数々は、コメディーの域をほんの少しはみ出ていく。高校生になっても父親とお風呂に入っているなんてのも、笑うしかないが、ちょっとブラック過ぎて、呆れる描写にしかならないのは痛い。かなりいい線をいく作品だが、あと一息及ばない。

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