2月に読んだ本は、14冊。いくつかは簡単な感想を書きとめたけど、まだ書いていない小説がたくさんある。そこで、一気にここで触れておこう。
一番好きだったのは、瀧羽麻子の『株式会社ネバーラ北関東支社』。昨年、彼女のデビュー作『うさぎパン』を読んで、こんな作家がいたんだぁ、と感動した。だから、その後、続々と出版された作品もぜひ読みたいと思いながら、なかなか機会もなく、今日に至るのだが、まずこの第2作を皮切りにして、うちの図書館にも続々入荷してきたので、これから大事に読み始める。今、まず、昨年刊行された最新作を2冊手元に置いている。楽しみだ。さて、この第2作なのだが、パターンとしては、前作を踏襲している。長編、とそのスピンオフの短編の2本立。前作は高校生だったから、今度は大人の女性。(でも、29歳)
こういうのんびりしたゆるい生活って、素敵だ。もちろん、ばりばり働くのもいいけど、疲れてしまったら、休まなくては、と思う。死んでしまうほど(実際主人公が気を許す同僚の奥さんは過労死した! という設定)に働いたら、やはりまずい。
そこでこの主人公の女の子は、東京を離れて地方の町でのんびり、ゆっくり暮らすことにする。賢明な判断だ。大手の会社でたくさんの部下を抱え、エリート街道まっしぐら、だったのに、田舎の小さな会社(納豆の会社。しかも、下請けに)に行く。単調で刺激のないそんな生活にはすぐに飽きてしまうかもしれないけど、小説の中でなら、そんな時間を過ごすことで元気になれるからいい。映画や小説は今ある自分の世界から抜け出して、別の場所にすぐに行けるからいい。そこで彼女は、もう少しここにとどまる。この町で、小さな会社の気の合う仲間と過ごす時間は愛おしい。
よしもとばななが『鳥たち』を書きたかった気分はすごくよくわかる。ここにはストーリーはない。ただ、彼女の理想が語られる。こんなふうにして愛を育み、やがて新しい命を授かり、育てていこう、と思う。主人公のふたりの願いは作者の願いだ。でも、なかなか赤ちゃんは二人の元へとやってこない。『キッチン』の昔から、今まで、ずっと同じことを書いてきた。そしてこれからも書いていこうという決意表明のような小説だ。
今年の文芸賞を受賞した上村亮平の『みずうみのほうへ』も読んだ。異なる時間軸を行き来して、時空を超えた心象風景を浮かび上がらせていく。7歳のとき、父との船旅で、父を失う。海の底に沈んだ父。その後の、ひとりぼっちの日々。叔父に引き取られて、成長する。少年はやがて大人になり、ゆっくりと再生していく日までのいくつもの風景が綴られる。とても静かで胸に滲みる。ただ、こういうお話は乗れなかったら悲惨なことになる。今年芥川賞を受賞した小野正嗣の『九年目の祈り』には乗れなかった。以前読んだ『線路と川と母のまじわるところ』もだめだったから、今回もあまり期待しなかったけど、このテンポについていけない。好きなタイプの小説なのに、なぜ、そうなるのか。全くダメだった。とても、微妙な問題なのだろう。
昨年、芥川賞を受賞した柴崎友香『春の庭』を、また読んでしまった。去年発売されて、すぐ読んだのに、もう忘れていて、手に取ってしまった。彼女の小説はどれを読んでも同じなので、タイトルをちゃんと覚えていないと、こういうことが起きる。読み始めて気がついたけど、止まらなくなり最後まで読んだ。先日読んだ中村文則『去年の冬、きみと別れ』も同じパターンで、今月入ってこれで二度目。学校の図書館に新刊として入荷した本を手にした時、こういう失敗をするのだ。地域の図書館で先に読んでいるのに、すぐに忘れる。
佐藤多佳子『シロガラス③ ただ今、稽古中』も読んだけど、三巻に入ったのに、まだストーリーは始まらない。一応、謎の正体に迫ってくるけど、そこでエイリアンとか、ありえない。これじゃぁ、ちょっとした『Xメン』じゃないか。どんどん俗っぽくなっていくけど、大丈夫か? それをどう修正してくるか、どこに向かっていくのかは四巻か。いくらなんでも、そろそろ佳境に突入するはずだ。
東直子『いとの森の家』は、小説家になったら、いつかはこういうものを書きたいだろうな、と思わせる作品。それをどんな語りで見せるのかは、人それぞれでいい。西加奈子『サラバ!』と違って、東直子はピンポイントで見せた。子供のころの一年ほどだけ暮らした田舎の村での生活を描く自伝的作品だ。日々のスケッチ。森の奥に住むおばちゃんとの交流。そのおばちゃんの秘密。彼女は、刑務所に行き死刑囚に面会し、励ます。子供のころ出会う近所のおばちゃん(あるいはおじさん)の存在は大きい。『サラバ!』にも、主人公やその姉に大きい影響を与えるそんなおばちゃんは登場する。家族ではない他人だけど。
柚木麻子『3時のアッコちゃん』も楽しかった。待望のシリーズ第2弾。今回もアッコちゃんは4話のうちの2話にしか登場しない。もっと彼女に会いたい。でも、なかなか会えないのが彼女なのだ。
そんなこんなで2月は小説ばかり読んでいた。一番は西加奈子の『サラバ!』と宮下奈津子『ふたつのしるし』。この2本は先に書いた。
一番好きだったのは、瀧羽麻子の『株式会社ネバーラ北関東支社』。昨年、彼女のデビュー作『うさぎパン』を読んで、こんな作家がいたんだぁ、と感動した。だから、その後、続々と出版された作品もぜひ読みたいと思いながら、なかなか機会もなく、今日に至るのだが、まずこの第2作を皮切りにして、うちの図書館にも続々入荷してきたので、これから大事に読み始める。今、まず、昨年刊行された最新作を2冊手元に置いている。楽しみだ。さて、この第2作なのだが、パターンとしては、前作を踏襲している。長編、とそのスピンオフの短編の2本立。前作は高校生だったから、今度は大人の女性。(でも、29歳)
こういうのんびりしたゆるい生活って、素敵だ。もちろん、ばりばり働くのもいいけど、疲れてしまったら、休まなくては、と思う。死んでしまうほど(実際主人公が気を許す同僚の奥さんは過労死した! という設定)に働いたら、やはりまずい。
そこでこの主人公の女の子は、東京を離れて地方の町でのんびり、ゆっくり暮らすことにする。賢明な判断だ。大手の会社でたくさんの部下を抱え、エリート街道まっしぐら、だったのに、田舎の小さな会社(納豆の会社。しかも、下請けに)に行く。単調で刺激のないそんな生活にはすぐに飽きてしまうかもしれないけど、小説の中でなら、そんな時間を過ごすことで元気になれるからいい。映画や小説は今ある自分の世界から抜け出して、別の場所にすぐに行けるからいい。そこで彼女は、もう少しここにとどまる。この町で、小さな会社の気の合う仲間と過ごす時間は愛おしい。
よしもとばななが『鳥たち』を書きたかった気分はすごくよくわかる。ここにはストーリーはない。ただ、彼女の理想が語られる。こんなふうにして愛を育み、やがて新しい命を授かり、育てていこう、と思う。主人公のふたりの願いは作者の願いだ。でも、なかなか赤ちゃんは二人の元へとやってこない。『キッチン』の昔から、今まで、ずっと同じことを書いてきた。そしてこれからも書いていこうという決意表明のような小説だ。
今年の文芸賞を受賞した上村亮平の『みずうみのほうへ』も読んだ。異なる時間軸を行き来して、時空を超えた心象風景を浮かび上がらせていく。7歳のとき、父との船旅で、父を失う。海の底に沈んだ父。その後の、ひとりぼっちの日々。叔父に引き取られて、成長する。少年はやがて大人になり、ゆっくりと再生していく日までのいくつもの風景が綴られる。とても静かで胸に滲みる。ただ、こういうお話は乗れなかったら悲惨なことになる。今年芥川賞を受賞した小野正嗣の『九年目の祈り』には乗れなかった。以前読んだ『線路と川と母のまじわるところ』もだめだったから、今回もあまり期待しなかったけど、このテンポについていけない。好きなタイプの小説なのに、なぜ、そうなるのか。全くダメだった。とても、微妙な問題なのだろう。
昨年、芥川賞を受賞した柴崎友香『春の庭』を、また読んでしまった。去年発売されて、すぐ読んだのに、もう忘れていて、手に取ってしまった。彼女の小説はどれを読んでも同じなので、タイトルをちゃんと覚えていないと、こういうことが起きる。読み始めて気がついたけど、止まらなくなり最後まで読んだ。先日読んだ中村文則『去年の冬、きみと別れ』も同じパターンで、今月入ってこれで二度目。学校の図書館に新刊として入荷した本を手にした時、こういう失敗をするのだ。地域の図書館で先に読んでいるのに、すぐに忘れる。
佐藤多佳子『シロガラス③ ただ今、稽古中』も読んだけど、三巻に入ったのに、まだストーリーは始まらない。一応、謎の正体に迫ってくるけど、そこでエイリアンとか、ありえない。これじゃぁ、ちょっとした『Xメン』じゃないか。どんどん俗っぽくなっていくけど、大丈夫か? それをどう修正してくるか、どこに向かっていくのかは四巻か。いくらなんでも、そろそろ佳境に突入するはずだ。
東直子『いとの森の家』は、小説家になったら、いつかはこういうものを書きたいだろうな、と思わせる作品。それをどんな語りで見せるのかは、人それぞれでいい。西加奈子『サラバ!』と違って、東直子はピンポイントで見せた。子供のころの一年ほどだけ暮らした田舎の村での生活を描く自伝的作品だ。日々のスケッチ。森の奥に住むおばちゃんとの交流。そのおばちゃんの秘密。彼女は、刑務所に行き死刑囚に面会し、励ます。子供のころ出会う近所のおばちゃん(あるいはおじさん)の存在は大きい。『サラバ!』にも、主人公やその姉に大きい影響を与えるそんなおばちゃんは登場する。家族ではない他人だけど。
柚木麻子『3時のアッコちゃん』も楽しかった。待望のシリーズ第2弾。今回もアッコちゃんは4話のうちの2話にしか登場しない。もっと彼女に会いたい。でも、なかなか会えないのが彼女なのだ。
そんなこんなで2月は小説ばかり読んでいた。一番は西加奈子の『サラバ!』と宮下奈津子『ふたつのしるし』。この2本は先に書いた。