松山から来阪しての公演。でも、まったく気負いはない。この自然体、等身大がこの集団の持ち味なのだろう。70分の芝居はさらりとした感触で、あっけなく終わるのだけど、そこが魅力。登場人物はたったの4人。主人公の青年を通して、小さなお話が綴られる。作、演出の玉井江吏香は彼の日常をさりげなく追いかけるだけ。彼の目線の先にいる3人も同じ。何も説明はしないけど、そこに彼らが確かにいる。
地方の小さな町、駅の中にある役所の出張室を舞台にして、町おこしの企画を持ち込んできたプランナーと役所の職員とのやりとりを描く。タイトルの「ツイノスミカ」とはこのお話の焦点となる老人ホームのことでもあり、この町自身のことでもあるのだろう。だけど、この芝居は大仰なメッセージを提示するのではない。ここにすむ彼らの日々の営みを描こうとするだけ。
坂の上にある老人ホームに向かう道がぬかるんでいて、歩きにくいから、そこを簡易舗装しようとするのだが、その道は地元の名士であり、今回の町おこしのシンボルにしようという作家ゆかりの地で、そのぬかるんだ道を歌った作品が有名なので、そこを残したいと町おこしプランナーは考える。生活圏である場所の利便を優先させたい職員とぶつかり合うことになる、と。でも、こういうストーリーが大事なのではない。そこにあるのはそんな小さな諍いも含めた、なんでもない日常なのだ。今日があり、明日がある。同じような日々のくりかえし。退屈にみえるそんな日常の中に、人に営みがある、という至極あたりまえのことをこの小さな芝居は声高にではなく、小さな声で伝える。無理せず、自分の身の丈に合った芝居を作る。そんな誠実さがここちよい。