ポプラ社の小説は一番信用できる。作者名より、作品内容より、まず出版社名で借りてしまう事すらある。(まぁ、そこまで言うと、言いすぎだが)今回も山本幸久の新刊ではあるけど、出版社がポプラ社だったので内容のチェックもなく借りてきて読み始めた。やはり安心の出来だ。24歳、ブラック企業勤務。身も心も疲れ果てていた紀久子が夜中のファミレスで、ひとりの女性と出会うところからお話は始まる。読みやすいし、心地よい。
ただ、これが少し残念なのは、あまりにお話が単純すぎて、なんのひねりもなく単調で、退屈すらしたという事実だ。ということは、これは失敗作なのか? 24歳のふつうの女の子がブラック会社を辞めて花屋でアルバイトをする話だ。別に花屋にあこがれて、とかいうわけではない。たまたま、である。でも、たまたま始めたバイトで気持ちのいい時間を過ごす。それだけのことがなんだかとてもいいことに思える。特別なことは何もない。単調な毎日。でも、お客さんは気持ちのいい人たちばかりで、スタッフも素敵な人たちばかり。居心地がいい。ゆっくり時間をかけて、これからのことを考えたらいい、と店長からも言われる。
バイト生活には不安がないわけではない。求職はしているけど、採用には至らない。美大を出ているし、デザインの仕事がしたいのだけれど、その手の会社には採用してもらえない。新卒ではないし、実績もないから仕方あるまい。そんなとき、身近なところからデザインの仕事の依頼を受ける。なんとなく軽い気持ちで引き受ける。(実は、最初は自信もないので、断るのだが)それがいくつか続く。やがてフリーのデザイナーとしてバイトしながら、仕事をすることになる。「そんなふうに上手くいくわけないやん、」とは思わない。どこにチャンスは転がっているか、なんてわからないからね。
ここまで書いてきて気づく。この小説の単純さや単調さは確信犯なのだ。ゆっくりとこの時間に身を任せて、自分をみつめること。自分にできることをしっかり誠実にこなしていくこと。その先にはきっといいことがある。真面目に生きていたら大丈夫なんだから。これはそんな小さな幸せの物語。