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映画・演劇のレビュー

『パドルトン』

2022-05-15 10:36:01 | 映画

『ブルージェイ』を見て、アレックス・レーマンに興味を抱く。過去作を検索すると2本。しかも、いずれもネットフリックスで配信されている。ほんとうに便利な時代になったものだ。まず第1作の『アルペルガーザらス』を見た。なんとドキュメンタリー映画だ。アスペルガーの4人の男の子たちが主人公。彼らが高校卒業記念ライブをする。その記録。彼らはコント集団を結成している。その解散ライブを企画した。この先それぞれの道を歩むことになる。その前に、今自分たちにできることをやりきる。大学進学やそれぞれの夢に向かい、出発する準備があるはずなのに、それよりもまず、このライブを優先する。まず、「今の自分たち」を大事にしたいから。ネタを考え稽古をする日々がスケッチされていく。アスペルガーだから、どうこうとか、そういうお話ではない。だが、彼らが出会えたのはアスペルガーだったからだ。子供の頃、キャンプで仲よくなった。障害を持つ子供たちを集めたキャンプだった。自分と同じように苦しむ同世代との交流が彼らを結び付けた。まったく方向性が違う4人が同じ目的に向かい、集まる。これは特別なことではない。これは誰もがそんなふうに生きるべきだと思させられる夢のような感動的な記録だ。

続いて第2作であるこの作品を見た。こちらは劇映画だ。主人公はふたり。『ブルージェイ』と同じ。こちらは恋愛映画ではない。男同士の友情が描かれる。ふたりはたまたま同じ小さなアパートで暮らしていた。2階建てで、その1階と2階。真上と真下。マイケルとアンディ。マイケルは末期の胃がんと診断されたが、治療を諦めて安楽死しようとしていた。アンディは彼を助けたい。そんなふたりの日々が淡々と描かれていく。最後は死の手助けをすることになる。

そこに至るふたりの心の葛藤がさらりとしたタッチで綴られていく。アンディはマイケルになんとかして生きていて欲しいと願う。ふたりはカップルではない。男同士が仲よくしていたら、まわりはついついそういう目で見る。ゲイのカップルを否定するのではなく、偏見なくありのままの自分たちを見て欲しい。わかりあえる仲のいい親友。そういう関係もある。それは男女でもあり得るはずだ。アレックス・レーマンは、表向きのストーリー以上にそういうさりげない設定を一番大事にする。『ブルージェイ』のふたりだってそうだった。そこにあるのは、元カレ、元カノの再会というフォーマットから連想するお決まりの展開ではない。この映画だってそうだ。男同士の恋愛ではないし、自殺幇助でもない。

ふたりはパドルトンという自分たちだけのゲームを考案し、いつも一緒に楽しんでいた。そんな平和な描写から始まる。そして、最後はひとりになったアンディがパドルトンをするシーンになる。でも、マイケルの住んでいた部屋に新しく引っ越してきた少年とその母親と言葉を交わすラストシーンでなんだか暖かい気持ちにさせられる。親友の死は悲しいことだけど、人生はそこで終わるわけではない。

日本ではまだ劇場公開作はないけど、こんな素敵な映画を作る監督がアメリカにいる。あたりまえのことだけど、世界は広い。

PS 後で確認すると、この映画は『ブルージェイ』の後で作られた作品で、彼の第3作であり最新作だった。


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