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映画・演劇のレビュー

『「また必ず会おう」と誰もが言った』

2014-08-23 20:25:36 | 映画
 こういうロードムービーはこれまでにも結構たくさんあるけど、この映画はそんな中で、少し変わったアプローチを見せる。

 旅自体は受け身で、彼は自分から進んで旅に出た訳ではない。どちらかというと、仕方なく、である。しかも、それはつまらない自分の嘘から出発する。東京に行ったことがある、と友だちに嘘をついた。それを嘘にしないための辻褄合わせのため、東京に行く。そんなつまらない理由で旅を始めるような人間がいるのか。でも、いる。こいつがそうなのだ。普通じゃない。

 だが、そんな消極的な理由で始めた旅だったのだが、なんだかわけがわからないうちに、おかしなことになる。お金を失くして、飛行機にも乗り遅れて、空港の売店の(もちろん、まるで知らない)おばさんから、「泊めてあげる」と誘われ、そんなこんなで、いろんな人たちと出会い、いろんな経験をして、思いもしない方向に流れる。自分から身を投じた訳ではない。どちらかというと、巻き込まれたって感じだ。だが、偶然でも都合がよすぎないか。こんなにも優しい人たちばかりと出会っていいのか、と思うくらいありえない。でも、それがなぜか、嘘くさくはないのが不思議だ。

 そういうこともある、というか、そういう偶然の出会いが旅にはある、ということか。もちろん、これは映画だし、現実ではない。だが、現実だって時として偶然が重なり思いがけない展開を見せる場合もある。

 17歳の少年がたったひとりで簡単に旅に出て、簡単ではないアクシデントに見舞われ、結果的に、とんでもない経験をする。だが、それを説明するのは難しい。

 彼が出会った大人たちは、今まで彼が出会ってきた人たちとは違う。学校や家から離れて、現実の世界と触れ合うことで、彼は成長していく。しかし、それを変に冷めた目で見ている。

 そんな主人公のスタンスが、この映画をよくあるものから一風変わったものにする。彼が目をキラキラさせたりしたなら、それだけで、この映画は嘘になる。そうはならない。そこがこの映画の矜持だ。古厩智之監督はこのささやかな映画をそのままのスケールで成立させる。彼はこういう小さな映画を作るのが、昔からとても上手いのだ。今回もまた、彼の本領発揮となる小佳作となった。
 

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