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映画・演劇のレビュー

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

2012-09-11 22:36:49 | その他
 このストーリーで話を成立させるのは難しい。どこかで綻びが生じる。辻褄合わせに気を取られると、話自身にある感動を見失う危険もあった。ということは、これもバランスだ。5つの話をどう組み立てるのか。しかも、破綻なく。

 発想の発端はただのファンタジーだ。だが、その話のなかで、どれだけリアルな展開を組み入れることができるのかが、成否の境目になる。若い頃の(と言っても、40代、50代の頃だが)大林宣彦監督が好きそうな話だ。『あした』とか、まさにこんな感じだった。東野圭吾は、こんな一見甘いだけのファンタジーを、精魂込めて作る。その時、ちゃんと奇蹟は起きる。

 時空を越える手紙。3人組のチンピラ強盗が偶然入った廃屋。そこで体験する不思議な出来事。ポストに入れられた手紙に返事を書く。すると、時空を越えて手紙は届く。

 昔、ナミヤのじいさんが、寄せられる悩み事にちゃんと答えることで、たくさんの人たちが救われた。最初は子どものいたずらのようなものだった。でも、その悩み相談室で、子供たちは楽しい時間を過ごした。じいさんはどんな内容にも真摯に向き合ったからだ。やがて、本気の相談も寄せられるようになった。じいさんは全力で答えを捜す。

 ひとつの場所で、起こる奇蹟はすべて、もうひとつの場所とつながる。これはある児童養護施設にまつわる話なのだ。そして、ある男女の叶わなかった愛の物語。ラストですべてのピースがひとつになった瞬間、そうだったのか、と胸がいっぱいになる。最初は単純なオムニバスに見せかけて、実はそうじゃないとすぐに、わからせる。でも、それぞれのお話がおもしろいから、気にすることなく、どんどん読み進める。あっという間の出来事だった。でも、読み終えたときの満足感は半端じゃない。こういうエンタメ小説であっても、というか、こういうエンタメだからこそ、こんなにもストレートに思いは届く。



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