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映画・演劇のレビュー

第2劇場『黄昏サンド』

2016-05-03 18:09:47 | 演劇

 

ゴールデンウィーク唯一のお芝居だ。実は忙しすぎてこれも見れないかも、と思ったのだが、仕事の関係で時間に少し余裕が出来たから、見に行けるようになった。2劇の13カ月振りの新作である。(そんなにしてなかったんだぁ)

だから出来る限り見たい、とと思った。で、そういう願いが叶った。うれしい。実を言うと、うちのクラブが、インターハイ予選のベスト8のところで、負けたりしたから、日曜の午後、時間が出来たのだ。(実はそのこと自体はとても残念だけど)

 

初めて石橋の大阪大学豊中キャンパスに行ってきた。2劇はこれまでも盛んに学内公演をこなしているのだが、さすがにそちらには今まで行ったことがなかった。でも、今回は阿部さんの作(四夜原茂)、演出の新作を見れるという誘惑には勝てない。しかも、当日は学園祭もしていて、なんだかお得。少し早く行って学園祭も楽しむことにした。ということで、大学の雰囲気をなんとなく実感出来たのも、ラッキー。(まぁ、せいぜい30分くらいだったが)

 

来年創立40周年を迎える2劇の40周年プレ企画。今年は本公演はこの作品のみで、この作品も含めて、来春の40周年記念公演に向けて準備を始めるようだ。そんなことも知らずに芝居を見に来て、当日もらった「この1年の企画の全貌」告知チラシで知った。ということは、今回見に来れてよかった。なんだか、いろんな意味で、ワクワクする。

 

これは2劇が学生劇団でもあるという当然のことを改めて実感させられる作品だった。いつもの学外公演とは違ってなんだか初々しい。それは学内という環境だけではなく、若手中心のキャスト、スタッフを阿部さんが指揮して、いつもと同じレベルの芝居を作っていることも大きい。新人公演ではなく、2劇の芝居の王道を行く作品を、でも、少し肩の力を抜いて作っている。そうすることで、いつも以上に新鮮な舞台が奇跡的に生まれる。

 

75分という上演時間もいい。無理はしない。お話は昭和の香りがプンプンするような密室劇。一人暮らしのアパートから出ない。いつものように侘しい食事(カップめん)を取ろうとした時、普段なら誰も訪れないこの部屋に客がやってくる。訪問販売とか、宗教の勧誘とか、そんな感じなのだ。でも、彼は喜んでそんな訪問者を家の中まで招き、お茶まで出す。(でも、お茶っぱは出がらし)今までも阿部さんがよくやってきたパターンの芝居である。こういう作品を何度となく見たような気がする。招かれざる訪問者が彼の生活をかき乱すというのが、パターンだ。

だが、今回は彼はそんな訪問者を少しも迷惑に思わない。ウエルカム状態でどんどん受け入れる。反対に訪問者のほうが困惑する。趣味で作っている爆弾を巡るお話と、続々と手を変え品を変えやって来る訪問者とのやりとりをテンポよく見せながら、お話はどんどん意外な方向にスライドしていき、どう収拾をつけるのか、と思わせて、一気にすべてを解決する。ラストの静けさが衝撃的だ。

 

ゴキブリの話や、この部屋を訪れる女の話。彼自身がゴキブリで、この部屋はその女の部屋で、なんていう、これもまた、よくある2転3転する展開も心地よい。小劇場の芝居のある種のパターンを熟知する作者が、そんな定番を生かしながら、それゆえに新鮮な気分にさせる。狭い部屋を広げるシーンも笑える。これは芝居のセットだから、なんて言われると、身も蓋もないけど、そんな細部までが新鮮なのだ。

「祝HANDAI歓迎公演」と銘打たれたように、これはお芝居のビギナーに芝居の面白さを伝える公演でもあるのだ。演劇を見たことにない人が、これに触れて小劇場の芝居の面白さ、可能性を実感するための公演。それが芝居を見慣れた僕たちのようなものにも、改めて芝居の楽しさを実感させることにもなる。

 

いい芝居を見た。とてもシンプルで、だからこそ、様々なことを想像させる。演劇の本来あるべき姿を再確認させるこれはそんな作品だ。

 

 

 


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