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映画・演劇のレビュー

劇団925『私の秘密の冒険の話』

2012-07-18 22:17:48 | 演劇
 これはとっても小さな初恋の物語だ。中西邦子さんの自伝的作品、なのかもしれない。あまりにさわやかで、でも、ささやか過ぎて、なんだか恥ずかしい。声に出して友だちに、あるいは、もっと漠然と、周囲の誰かに、話すことすらできないような、話である。本人には大事なことでも他人にとってはどうでもいいようなことってある。それがこれなのだ。だから彼女はそれをお芝居にした。ひっそりと小声でおしゃべりするように始まる。

 ほんの少し不思議ないくつもの小話が語られていく。エピソードのはざまでさりげなく挿入される田中くんとの話が、やがて最後のエピソードとなり、この作品の要となることに気づかされる。かわいくて、なつかしくて、切ない。20年のときを経て、田中くんと向き合うラストを必要以上に感動的に見せたりはしない。それをされると、うそくさくて、ひとりよがりのものになってしまうことは、中西さん自身が、誰よりもよく知っている。

 だいたいこんな話を1本の芝居にしてしまう時点で、これはひとりよがりで鼻持ちならないものとなる可能性は十分にあったはずだ。危険な題材だ。だから必要以上に気をつけて取り扱う。その結果、これはまるで、ひそやかな宝石のような輝きを秘めたものとなる。今では大人になってしまった小さな女の子のたった70分の大冒険物語になる。

 山道で出逢ったあの5歳くらいのうさぎの着ぐるみの少女は、もうひとりの彼女自身だと思うと、なんだかラストでもう一度あの女の子に会いたくなった。これは少女の頃の想いをいつまでも大切にする中西さん自身の物語だ。

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