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映画・演劇のレビュー

ニットキャップシアター『ピラカタ・ノート』

2012-07-18 22:18:33 | 演劇
 『ヒラカタ・ノート』はずっと見たかったお芝居だ。でも、なんだか機会がなくて、今まで見れなかった。今回そのバージョンアップ作である本作を見ることができて、とてもうれしい。ごまのはえさんの自伝的作品なのだろう。枚方の団地で生まれ育ったひとりの少年が、自分と自分の周りの世界をどんな目で見て生きてきたのかが、いくつものエピソードの積み重ねの中で描かれていく。

 だが、ほんとうはそんな単純な構造ではない。『古事記』をモデルにした国つくりの神話だ。ヒラカタ(ピラカタ)国が誕生するに至る歴史、その顛末が語られる。それと同時に現代の枚方(というか、ごまのはえさんの少年時代の)で生きるいくつかの家族の物語を重ね合わせたり、合わせなかったり、しながら、架空の町ピラカタをここに作り上げていく。

 枚方は、ヒラカタであってピラカタではない。というか、この3者は、同じものであっても、同じではない、ということだ。彼の『ヒラカタ・ノート』と今回の作品との差異は知らないのだが、両者は全く別のものではないはずだ。彼の中で枚方は、どんどん成長し、変化してゆき、もう原型をとどめない。

 水槽のなかのピラカタと、少年が暮らす町ヒラカタと、ごまのはえさんが暮らしていた枚方は、この作品のなかでひとつになる。どこにもない、かつてどこにもあったニュータウン。そんな幻の町を、彼はとてもリアルにこの2時間の芝居のなかに作り上げる。この国を作った神はごまのはえ自身である。僕たちは彼の世界「ピラカタ」で一時を過ごす。

 1995年1月17日、交通事故で死んだひとりの女性の物語の周囲を浮遊するいくつもの物語。障害を持つ少年と、彼へのいじめ。竹藪の中に落とされた少年が見た夢。死んだ母親を訪ねる旅。黄泉の国への道。姉と父との3人の暮らし。自分の気持ちをことばに出来ないまま、すべてを心の中に秘めて生きる少年の話にとどまることなく、果てしなく増殖する高度成長期とともに生まれたニュータウン枚方伝説。21世紀に入って老朽化したニュータウンは、やがて老人たちの住む町となる。敢えて千里ではなく、枚方を舞台にしたのは、ごまのはえささんが、ここで育ったからでしかないが、千里ではなく、枚方を舞台にすることで生じた中途半端さが、この作品の幻想をより強固なものにする。決して阪急電車ではなく、ただのローカル線である京阪電車、その中心の位置する枚方市駅。そこからさらにバスで行くこの世の果てのニュータウンという古代遺跡ピラカタ。小林一三ではなく、松下幸之助が作った町。大阪の辺境ピラカタは、本当は世界の中心である。日本という国の誰も知らないこの世界の中心を舞台にして、世界の成り立ちをパノラマ的に作り上げたごまのはえの宇宙を僕たちはここで目撃する。



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