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映画・演劇のレビュー

『光』

2017-12-21 19:51:59 | 映画

 

河瀬直美監督作品である。この6月公開された。先日見た『光』とは別作品。同じタイトルの全く別映画が、11月に公開されているのは先日書いた。というか、その映画の感想を先に書いて、この映画のことを今日まで置いてけぼりにしていたのだが。たまたま同じタイトルになっただけで、両者を比較する必要はまるでないが、作品としては大森立嗣の映画よりもこちらの方が僕は好きだ。

 

河瀨監督のこの作品は、視覚障がい者のための「映画の音声ガイド」の制作現場が舞台となる。ナレーションを作る仕事に従事している女性と、モニターとして音声ガイドに関わる男性(やがて彼は目が見えなくなる)カメラマンとが主人公だ。

 

前作『あん』に続いて再び永瀬正敏とコンビを組んだ。河瀨作品としては画期的な商業映画にもなった前作を受けて、今回も彼女らしい取り組みをする。ドキュメンタリータッチで、ふたりの関わりが描かれる。ラブストーリーにすれば、もっとお客さんの受けがよかったはずだが、そんなことはしない。『あん』があれだけ受け入れられた以上、今回も口当たりのいい作品にすることは十分に可能だった。しかし、敢えて抑える。淡々としたタッチで、視力が失われていく過程が描かれていく。それはカメラマンにとって恐怖だ。というか、誰にとっても恐怖であることは変わりない。少しずつ目が見えにくくなるという状況は受け入れてきた。でも、いざ、見えなくなると、その恐さは半端じゃないだろう。永瀬が抑えて演技で、その恐怖を体現する。感動的なヒューマン映画にするのは簡単だ。だが、そんなことは一切しない。光が失われていく不安と向き合いながら、今ある現実と向き合う。

 

映像を言葉にするというある意味虚しい作業と、真正面から向き合うヒロインと、永瀬が敵対するくらいの立ち位置で向き合うことで、自分の今ある現実を受け止めていく姿が丁寧に描かれていく。こんなにも、さりげなく生きることの深淵に触れる映画はめったにない。永瀬の自然体の姿をそのまま河瀨が捉え、最後の光にたどり着く。


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