舞台美術がいい。あの奥行きがシンプルだけど、象徴的だ。この芝居は舞台が深海だから、空間的には上下の話になるはずなのに、それを敢えて奥行きで見せる。深海に閉じ込められた人々の延々と続く繰り返し。彼らの抱える閉塞感、孤独、不安。でも、それは表面には出てこない。どちらかというとそれを日常の風景として淡々と描く。個性的なキャストのアンサンブルプレーだ。でも、ひとりひとりは目立とうとはしない。この空間の中に埋もれていく。
桃園会第50回公演。深津演劇祭最終プログラム。彼がいなくなってもこうして桃園会は続く。彼のもとに集まったスタッフ、キャストが桃園会を作り、支えてきた。劇団は彼だけのものではない。
演出は、前作は橋本建司(作も)だったが今回は森本洋史だ。彼はあまり自分の個性を前面には押し出さない。どちらかというと師匠のコピーに専念する。桃園会で得たものをきちんと表現する。ロジカルな芝居にはしない。自分の解釈を押しつけないのだ。テキストと、役者に委ねる。わからないことはわからないままでいい。役者を信じられる演出家はいい演出家だ。芝居は淡泊なものになったが、悪くない。静かできれいな作品に仕上がったのがうれしい。