習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『WAVES ウェイブス』

2020-08-02 09:13:22 | 映画

これもまた、家族の物語。最近家族の確執を描く映画がやけに多い、気がするけど、自分がそういうのをなんとなく、無意識に選んでいるだけなのだろうか。よくわからない。

厳格な父親と、若い継母。ふたりの子供たち。高校生の兄と妹。兄は父親の期待を一身に背負ったレスリング選手。でも、怪我から、リタイアを余儀なくされる。ドクターストップがかかるにも関わらず、父にそのことが言えないまま、試合に出場する。そして、負けるだけではなく、再起不能になる。しかも、恋人は妊娠する。当然中絶を望むが彼女は産みたいと言う。

映画は、前半は先に書いた兄の話で、後半は妹の話になる。それぞれが主人公になり、2本の映画を見た気分にさせられる。スクリーンサイズがビスタからシネスコに(でも、今の映画館はシネスコになるとスクリーンは大きくはならず、反対に小さくなるのが寂しい)、さらにはスタンダードにと、変化していく。全編多彩な音楽が流れたまま。そういうスタイルの映画なのだ。

お話自体は、一見、どこにでもありそうなお話。ただし、映画は、恋人をアクシデントで死なせてしまうことを起点にして、状況は大きく変わる。そこで兄の人生は(一度は)終わる。そして妹の人生も。だけど、それを華麗な音楽と映像表現で見せることで、ドラマチックな出来事ではなく、なんだかプロモーションビデオでも見ているみたいにすべてがなんとなく流れていく。現実のようには、思えない。(もちろん、これは映画なんだけど)

心地よいタッチで、このとんでもなく悲惨なお話は綴られ、でも、後半の妹の恋の物語のささやかな幸福は心に沁みる。だが、それでいいのだろうか、とも思う。バカな男子高校生の挫折と、賢い女子高生によるそこからの再生のドラマ。愚兄賢妹。まぁ、一概にそうは割り切れないけど、青春の光と影を彼らに象徴させたドラマと言い切れないこともない。

家庭崩壊は彼の引き起こした事件によって起きたわけではない。事件で大きく動くけど、自分のケガのことを父親に言えなかった、という最初のつまずきから雪崩を起こして、事件に至る。妹の戦いは、兄の引き起こした事件から始まるように見えて、実はそうではない。すべてがつながっていることは明白だ。誰が悪いか、なんていう犯人探しにはなんの意味もない。


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