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映画・演劇のレビュー

『オールドフォックス 11歳の選択』

2024-06-26 21:32:00 | 映画

侯孝賢(ホゥ・シャオシェン)が最後の映画として(認知症から引退宣言をした)プロデュースした台湾映画。ホゥの助監督をしていた若いシャオ・ヤーチュアン監督は、ホゥ・シャオシェン監督の初期の初々しい映画を思わせるタッチでバブル期89年から90年の台湾を舞台にして、クールな映画を作った。正反対な2人の大人(父親と地主)の間で揺れ動く11歳の少年の成長物語である。暗い夜の町が効果的。ふたりが自転車で走るシーンが美しい。

母を亡くし父とふたり暮らしの少年リャオジェは無口で頑な11歳。ある日、彼らが住むアパートの大家であり地元有数の地主であるシャと出会う。シャは何故か、この少年を気にして雨の日に車に乗せる。

真面目を絵に描いたような父と狡賢い初老の男(オールドフォックス、腹黒い狐と呼ばれる)。善と悪の象徴であるふたりの間で揺れ動く心。亡くなった母との夢である理髪店。コツコツお金を貯めて自分たちの家と店を夢見る父と息子。なんだか心温まる市井の人たちのドラマを思わせる設定だが、必ずしも心地よいだけのハートウォーミングではない。リャオジェに象徴される無口で静かな映画は、彼の頑なさそのままで、居心地が悪い。心を開かない。彼はよくある健気な子どもには収まらない。善良過ぎる父が大好きだが、なぜか腹黒いシャにも心惹かれる。まるで『スターウォーズ』のルークがダースベイダーに心惹かれたように。だが、それはダークサイドに落ちていくとかいうことを意味するわけではない。

この不思議に居心地の悪い映画はバブル期という時代の混迷に支えられている。何を信じていいのか、わからない。正しいことが報われるわけではない。それどころか正直ものはバカを見る。11歳が何を見つめて、どんな決意をしたか。家を売ってくれよ、と言う。シャは実はリャオジェに昔の自分の面影を重ねている。

エピローグの30年後も象徴的だ。自分たちの家にこだわったリャオジェは建築家になった。彼ははどんな大人になったか。映画は明確な答えを示さない。


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