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映画・演劇のレビュー

『タイム・オブ・ザ・ウルフ』

2007-05-21 23:47:08 | 映画
 『ピアニスト』の後でハネケが撮った終末を描く近未来SF映画。(ということにしておこう)企画自体は『ピアニスト』以前のものだが、、こんなにも地味な内容ゆえ制作会社が二の足を踏んだようだ。『ピアニスト』の成功でなんとか完成に漕ぎ付けたのだろう。

 オーストリア時代の過激な映画とは一線を画す静かな映画だが、底を流れるものは全く変わってない。

 世界が終わってしまった後、それでも生き残った人たちが、やってくる当ての無い列車を待ち続け、駅のホームで暮らす姿が描かれる。食料も水も充分にはない。それでも人々はなんとか秩序を保とうと努力しているが、そんなこと不可能に近い。残ったものをかきあつめなんとか生活している。町で住むものは、村に逃げ出す。しかし、そこにも、もう生きていくためのよすがとなるものはない。

 駅に集まった人たちは10日前に列車が来たから、待っていればやがて必ず次の列車がやってくると期待する。しかし、その列車にうまく乗れたからといって、一体どこに自分たちを連れて行ってくれるというのか。その列車が幸福駅への旅を保証してくれるわけではあるまい。ただ、ここではないどこかへ、そこにはここよりはましな何かがあるのではないかと思う。ただそれだけのことである。だが、そんなことにすがりつくしか生きる術はない。

 すべてを失った人間が、全く信じるものも、希望すらない中で、それでも生きていこうと努力する姿が描かれていく。イザベル・ユペールは『ピアニスト』に続いて主人公を演じる。彼女の抑えた演技が素晴らしい。二人の子供たちを抱え絶望の果てを生きていく。こんな状況であれ、それでも人間は生きる、というこの映画のテーマを体現する。

 ラストで、裸になり、火の中に飛び込むイザベルの息子を見知らぬ男が救う。こんな幼い子供が絶望の中で自殺する。それでも生きろ、なんて言われても、じゃぁ何のために生きるのか、と切り返されたなら答えられない。大人より先に子供たちが自殺してしまうような世界で、人は何のために生きようとするのか。この映画には出口はない。

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