読みながら、何度涙を流したことだろうか。恥ずかしくはない。ここに込められた川本さんの想いは、しっかりと読み手である僕たちの胸に届く。ただ、ふつうでありたかった。同じように朝起きて、挨拶を交わし、なにげない会話があり、仕事をして、贅沢をするときは、鮨屋に行く。35年間寄り添い、共に生きた妻がいる。一緒にいることが当然のことで、彼女がいるから、今まで生きてこれた。そして、これからもだ。
映画、文芸評論家で、エッセイストでもある川本三郎さんが最愛の妻を癌で亡くしていく。2008年、6月17日。57歳だった。その日から2年が過ぎている。失ったものの大きさ、心の空洞が、胸にしみてくる。こんなにも素直で正直な文章がかってあったであろうか。このさりげなさに涙はあふれる。
特別なことは何も言わない。ただ、いつものように、そこにいて、いろんなことを話してきた。とめどなく溢れてくる生前の想い出。病気になってからのつらい日々ではなく、元気だったころのなんでもない風景のひとつひとつが淡々としたタッチで綴られていく。どれだけ彼女に支えられたか。どれだけ愛していたのか。それが直接には何も語らないから、余計に深く胸に突き刺さる。これは感傷的な文ではない。抑えても、抑えても、抑えきれない想いが、ここにはある。
とても小さな本だ。単行本なのに、なんとかサイズも手のひらに収まる。150頁ほどの分量は1時間半もあれば読み切れてしまう。最初、本屋で見かけたときは立ち読みで最後まで読んでしまえそうだった。でも、ほんの少し読んで辞めた。あまりに、切なくて愛おしいから、惜しくなったのだ。ちゃんと、家に帰ってゆっくり読もうと思った。図書館に入るのをゆっくり今日まで待った。
川本さんの評論やエッセイが大好きだ。一番好きだ。もう何十年も欠かさず読んでいる。彼の考え方が好きだ。川本さんのようになりたい、と思う。でも、まだまだ無理だ。ここには、そんな彼が、妻を失い、ひとりで生きる姿が、静かに綴られている。見てはならないものを盗み見した気分だ。なんだか罪悪感すらある。ごめんなさい。
猫のこと、昔の想い出、一緒に行った台湾旅行。たわいもない会話の数々、葬儀のこと、病床の妻のこと、在宅看護を試みた日々。時系列に並ぶことなく、ただなんとなく、思いつくまま綴ったようなさりげなさ。こんな形でしか語れない。気持ちの整理のためではない。抑えきれない想いを、抑えるためだ。彼女のいない人生をこれから、生きていかなくてはならない。その痛みを抱いてこれからも人生は続く。その日々を、無為にしない。
今年、川本さんの自伝的小説『マイ・バック・ページ』が映画化され、公開される。主演は妻夫木聡。彼が若き日の川本さんを演じる。監督は『リンダ・リンダ・リンダ』や『天然コケッコー』の山下敦弘である。ずっと映画を書いてきた川本さんが映画になった自分を見るなんて、なんだか不思議な気分だろう。奥さんの役は誰がするのだろうか?
映画、文芸評論家で、エッセイストでもある川本三郎さんが最愛の妻を癌で亡くしていく。2008年、6月17日。57歳だった。その日から2年が過ぎている。失ったものの大きさ、心の空洞が、胸にしみてくる。こんなにも素直で正直な文章がかってあったであろうか。このさりげなさに涙はあふれる。
特別なことは何も言わない。ただ、いつものように、そこにいて、いろんなことを話してきた。とめどなく溢れてくる生前の想い出。病気になってからのつらい日々ではなく、元気だったころのなんでもない風景のひとつひとつが淡々としたタッチで綴られていく。どれだけ彼女に支えられたか。どれだけ愛していたのか。それが直接には何も語らないから、余計に深く胸に突き刺さる。これは感傷的な文ではない。抑えても、抑えても、抑えきれない想いが、ここにはある。
とても小さな本だ。単行本なのに、なんとかサイズも手のひらに収まる。150頁ほどの分量は1時間半もあれば読み切れてしまう。最初、本屋で見かけたときは立ち読みで最後まで読んでしまえそうだった。でも、ほんの少し読んで辞めた。あまりに、切なくて愛おしいから、惜しくなったのだ。ちゃんと、家に帰ってゆっくり読もうと思った。図書館に入るのをゆっくり今日まで待った。
川本さんの評論やエッセイが大好きだ。一番好きだ。もう何十年も欠かさず読んでいる。彼の考え方が好きだ。川本さんのようになりたい、と思う。でも、まだまだ無理だ。ここには、そんな彼が、妻を失い、ひとりで生きる姿が、静かに綴られている。見てはならないものを盗み見した気分だ。なんだか罪悪感すらある。ごめんなさい。
猫のこと、昔の想い出、一緒に行った台湾旅行。たわいもない会話の数々、葬儀のこと、病床の妻のこと、在宅看護を試みた日々。時系列に並ぶことなく、ただなんとなく、思いつくまま綴ったようなさりげなさ。こんな形でしか語れない。気持ちの整理のためではない。抑えきれない想いを、抑えるためだ。彼女のいない人生をこれから、生きていかなくてはならない。その痛みを抱いてこれからも人生は続く。その日々を、無為にしない。
今年、川本さんの自伝的小説『マイ・バック・ページ』が映画化され、公開される。主演は妻夫木聡。彼が若き日の川本さんを演じる。監督は『リンダ・リンダ・リンダ』や『天然コケッコー』の山下敦弘である。ずっと映画を書いてきた川本さんが映画になった自分を見るなんて、なんだか不思議な気分だろう。奥さんの役は誰がするのだろうか?